ユーロスペース支配人に聞いた! ベルイマン作品の魅力
「スウェーデン映画祭2015」が9月19日(土)より東京・渋谷の「ユーロスペース」にて開催されます。珠玉のスウェーデン映画11本が集結する映画祭では、世界的巨匠イングマール・ベルイマンの5時間におよぶ傑作『ファニーとアレクサンデル』、そして同作品のメーキングドキュメンタリー『ベルイマンの世界/ドキュメント「ファニーとアレクサンデル」』を同時上映します。日本でも根強い人気がある“ベルイマン作品”の魅力とは何なのか? およそ30年にわたってユーロスペースの支配人を務めている北條誠人さんに話を聞きました。
“完走”したような充実感が
フッと降りてくるんです
――北條さんにとってスウェーデン映画とはどんなものですか?
例えば、アキ・カウリスマキ監督の作品はフィンランドの文化や生活の匂い、国民性に裏打ちされているし、アッバス・キアロスタミ監督の作品ではペルシャの文化の香りがしますよね。スウェーデン映画も独特の匂いがある、と観た後に気づくんです。それは妙な“シニカルさ”と“人との距離感”なのかな、と思います。家族に対しても、他人に対しても気を使う登場人物たち…。彼らは本当のことはあまり言葉にしません。
――『ファニーとアレクサンデル』で描かれるエクダール家の人たちもそんな感じでしたね。
僕が『ファニーと~』を観たのは大学生になったばかりの頃。ベルイマンの作品を観る、というよりは「とにかく長い映画がある」と聞いて劇場に行った記憶があります。いま思い出すと、あまり作品の物語を覚えていないんですよ。とにかく、その時その時のエピソードにずっとついていく感じ。そして、それが終わった瞬間、つまり映画が終わった瞬間に“完走”したような充実感がフッと降りてくるんですよ。マラソンに例えるなら、走りながら見ている風景はどんどん過ぎていく。だから、記憶にはそこまで残らないのだけど、最後のゴールを見たときに、ああ、今までの風景は全部ここに集約されていたんだ、っていう感覚です。その時に、これがいわゆる“巨匠”の映画なんだと思いましたね。我々は5時間の映画を観ても納得できるのか! って。
――ベルイマンを知らない人もたくさんいます。
そうなんですよね。映画祭をきっかけにベルイマンがもっと身近な映画監督になってくれるとうれしいです。僕も今回の上映で、三十数年ぶりに『ファニーと~』を観ます(笑)。いま思えば、20代前半で観た時は登場人物の気持ちが分からないところがたくさんあったな…。でも、それから人生を経てきて、ベルイマンが何を描きたかったんだろう、という心構えで作品を観たら、また何かを得られるんじゃないかと思っています。作品と“再会”できることも映画のすばらしさですね。
字幕って、その作品の
“最後の演出”なのかも
――今回の映画祭ではJVTAの修了生らが字幕制作を担当しています。映像翻訳についてはどんなことを思いますか?
スウェーデン映画に限らず、海外の面白い作品を観ていて「あ、字幕がいいな」って思う時が何回かあるんですよ。うまい表現だな、とほれぼれするような気持ちになる時があって。そういう字幕に出合えるのって、すごくうれしくて、楽しいです。いい本を読んだ感覚に似ていて、スーッと感動が湧いてきます。一方で、ギクシャクした訳っていうのも時々ありますよね。それを見たときは字幕が気になっちゃって作品に集中できなくなってしまうことも。字幕って、その作品の“最後の演出”なのかもしれませんね。
――『ファニーと~』と同時上映される『ベルイマンの世界~』は国内未ソフト化で、日本語字幕付きで見られるチャンスは今後あるのかどうか…、くらいの貴重な上映です。責任重大ですね。
そうそう! 実は翻訳の仕事って責任重大ですよね。
スウェーデン映画祭に話を戻すと、とにかく、ベルイマンというすごい監督がいたっていうことだけは、みなさんに知ってもらいたいです。スウェーデンの他の監督の作品の中にも、きっとベルイマンの影響があるはずだから。そこを気にしながら観るのも、スウェーデン映画の楽しみ方の一つなのかもしれません。
北條誠人(ほうじょう・まさと)
●’61年9月1日静岡生まれ。大学在学中から映画の自主上映にたずさわる。’87年から「ユーロスペース」支配人を務める。
スウェーデン映画祭2015公式サイト
http://sff-web.jp/