最新機器&アプリも続々! 映画鑑賞に革命をおこす“新たなヒカリ”<機器編>
目や耳が不自由な人と、健常者が“同じ時に同じ場所で”映画を楽しむ未来がすぐそこまで来ている。最新のデジタル端末やアプリを使っての“映像のバリアフリー化”が進んでいるのだ。視力と聴力の低下は、先天的な障害や、事故・病気の経験の有無にかかわらず、年を取れば誰にでも起こりうる体の変化だ。そこで、今週から2週にわたって映像翻訳の世界にも大きな影響を与えるであろう映像のバリアフリー化の最新技術や視聴環境の変化などをレポートする。
【ポイント1】スマホを“映像バリアフリー化端末”に変えるアプリ「UDCast」
「UDCast」はスマートフォンやタブレットPCに、セリフだけでなく、効果音や音楽なども文字で伝える“バリアフリー字幕”を表示、イヤホンさえあれば映画やドラマの視覚情報を音声で知ることができる“音声ガイド”を出力させることができるアプリだ。
あらかじめ字幕や音声ガイドのデータを端末にダウンロードし、そのデータを立ち上げておけば、上映が始まると同時にアプリが自動的に作品とデータの表示/出力タイミングを同期。視聴者は自分で細かい調整をしなくても字幕/音声情報を正しく受け取ることができる。
※「UDCast」は、App Store、Google Playからダウンロード可能(2015年11月現在)
【ポイント2】映像のバリアフリー化を加速させる最先端メガネ型端末が続々登場
米グーグルが「個人のプライバシーが著しく侵害される可能性がある」などの理由でメガネ型端末「グーグルグラス」の発売を中止したのがことしの1月。一方で、日本国内の各メーカーは独自にメガネ型端末の開発を続けている。各端末の市場に向けたコンセプトはさまざまだが、共通していえることは、観客個人が自分の視界をカスタマイズできるということだ。聴覚に障害がある観客の場合は、このメガネ型端末に「UDCast」でバリアフリー字幕を表示させながら劇場で映画を観ることができる。
UDCastで字幕も表示できる!
最新国産メガネ型端末名鑑
●SmartEyeglass Developer Edition (ソニー)
軽量の両眼透過式メガネ型端末。スマートフォンと連携し、テキスト、シンボル、画像などの情報を視界に重ねて表示できる。およそ300万画素のカメラは動画も撮影可能。コントローラー部にはスピーカーを搭載。一般向け販売については2016年内を目標としている。
●AiRScouter (ブラザー)
工場での作業効率向上などに特化した端末。ヘッドバンド型なので、眼鏡をかけた状態でも使用することができる。1280×720ピクセルの高解像度液晶を搭載するほか、さまざまな端末とHDMI接続が可能。主に法人向けに販売中。
●MEG (オリンパス)
「人々の生活をより豊かなものとするために、ちょっとした“気づき”を与えたい」というコンセプトで作られたメガネ型端末。小型で、重さは標準的な眼鏡と同じ30グラム。無線通信を行うことも可能。見たい情報の表示位置を調整することができる。現在実用化に向けて開発中。
●MOVERIO (エプソン)
Android搭載のメガネ型端末。映像コンテンツを楽しむことを想定しており、身に着けると視界にスクリーンが出現。好きな体勢で映画やスポーツ中継を楽しむことができる。スマートフォンと連動させればウェブブラウザやカメラ、メールなどさまざまなアプリを使用することもできる。エプソンの販売サイト「エプソンダイレクトショップ」にて一般向けにも販売中。価格は69,980円(税込)。
【INTERVIEW】
一人でも多くの人に見てほしい
それが私の出発点です
「UDCast」開発者/NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)
理事・事務局長 川野浩二さん
「“UDCast”は障害者と健常者が共生する社会の実現を目指す“障害者差別解消法”(2016年4月1日施工)をきっかけに生まれたアプリケーションです。耳が聞こえづらい家族がいて、一緒に映画館に行っても、その人だけシーンを理解できないときがある。そんな状況も、これで改善できるでしょう。4月の本格的な運用に向けて、現在、実証実験を行っているところです」。
スマートフォンが一般的に広まったことと、ある音声解析技術がアプリ誕生の発端だ。「このアプリは日本のソフトウエア会社・エヴィクサーの“フィンガープリント”という音声解析システムを利用しています。これは病院で使われているCTスキャンと同じように、音を輪切りにして情報を解析し、そのデータを使って作品と端末内を同期します。つまり、映像本編の音声に特別なデータを入れなくても、アプリが自動的にその場で上映されている映画の音声に合わせて、字幕や音声ガイドを出してくれるのです」。
“映像をバリアフリー化するアプリ”の普及は、時代の変化が追い風になっているという。「少し前までは、デジタル技術を使ってバリアフリー字幕を配信するときは脚本家や原作者、監督や役者さんと契約書を結ばないといけなかったのですが、平成22年に法律が変わり、障害がある人など、それを“必要としている人”が使う分には、許諾をとる必要がなくなりました。NPOや非営利の団体は、文科省の認証を受ければ、一作品ごとに細かい契約を交わす必要がなくなったのです。この変化がなければ、“UDCast”は開発できませんでした。およそ6年、バリアフリー字幕配信に向けてアクションを続けてきた成果ですね。“必要としている人”の中には後期高齢者も入っています。これからの高齢化社会、映像のバリアフリー化は映画館にとっても集客の手段のひとつになります」。
川野さんは元音響エンジニア。一人でも多くの人に楽しんでもらいたい、という思いが原点だ。「元々は作り手側だったんです。映像業界に関わる全ての人の思いですが、作品は一人でも多くの人に見てほしい。でも、字幕がないから“見ることができない”、音声ガイドがないから見に行けないっていう“バリア”がある人たちがいる。やっぱり、誰かがそこはなんとかしなきゃいけないなって思いますよね。それが私の出発点です」。
川野浩二(かわの・こうじ)
’63年大分生まれ。音響エンジニアを経て現職。
「映画鑑賞に革命をおこす“新たなヒカリ”」
<劇場編>はこちら https://www.jvta.net/?p=9570
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