UNHCR難民映画祭プロジェクトマネージャー 今城大輔さんに聞く 今年の見所と難民の現状とは?
今年もUNHCR難民映画祭が9月~10月に開催されます。今年で11年目を迎えるこの映画祭は、UNHCR国連難民高等弁務官事務所と国連UNHCR協会が共催で、難民問題をより多くの人に広く知ってもらうことを目的に行っているもの。JVTAはその趣旨に賛同し、第3回から字幕制作でサポートしており、毎年多くの修了生が協力しています。そこで同映画祭のプロジェクトマネージャーであり、上映作品の選定にも携わる今城大輔さんに今年の映画祭の見どころと難民問題の現状を聞きました。
JVTA 今年は今後日本で劇場公開が決まっている作品も先行上映されるそうですね。
今城大輔さん(以下 今城さん) ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞し、2017年2月にBunkamura ル・シネマで劇場公開予定の『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』は、今日のイタリアを代表するドキュメンタリー映画の名匠、ジャンフランコ・ロージ監督の作品です。地中海に浮かぶ小さな島ランペドゥーサ島を舞台にアフリカや中東から船で逃れてくる難民、移民の姿を、島の人々の視点で描いています。ロージ監督は2013年のベネチア国際映画祭でも金獅子賞を受賞しており、こうした著名な監督の作品を取り上げることで、いわゆる映画好きな人たちにもこの映画祭に足を運んでほしいと思っています。
『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』
©21Unoproductions_Stemalentertainement_LesFilmsdIci_ArteFranceCinéma
今城さん また、タリバンから逃れるためにアフガニスタンからイランへ逃れ、ラップ・ミュージシャンを目指す少女を描く『ソニータ』も来年2017年に日本で劇場公開が決定しています。
『ソニータ』
© Rokhsareh Ghaem Maghami
JVTA 新作にこだわらず、過去の話題作も敢えて選んだとか。
今城さん 今年はすでに日本で公開された作品や世界の映画祭で賞を受賞した話題作も積極的に選びました。2015年にカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した『ディーパンの闘い』は日本でも2016年2月に公開された話題作です。
『ディーパンの闘い』
© 2015 – WHY NOT PRODUCTIONS – PAGE 114 – FRANCE 2 CINEMA – PHOTO: PAUL ARNAUD
今城さん また、ヴィム・ヴェンダース監督が手がけ、2015年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』も上映します。この2作品はすでにDVDも発売されていますが、「難民」というくくりで改めて上映することで、また違う見方ができると思います。世界で認められた名作を、難民に対してより意識の高い人たちに観てもらい、その現状を知ってもらうきっかけになればと期待しています。
『セバスチャン・サルガド/ 地球へのラブレター』
© Donata Wenders
JVTA 最近は世界中で難民のニュースが報じられる頻度が増えていますが、難民をテーマにした作品も増えているのでしょうか?
今城さん 少なくとも映画の世界では、ここ数年で難民に関する作品が増えていると思います。難民を多く受け入れているヨーロッパにとってはより身近な問題となっており、ヨーロッパの監督が自国に逃れてきた難民の姿を捉えた作品が増えました。しかし、難民の映画がカンヌやベルリンで高く評価されてもなお、日本では“海の向こうの遠い話”と感じている人が多いのが現状です。そんななか実は日本にも無国籍者や、経済的な状況で祖国での生活がままならず日本にきている人たちが大勢いて、すでに私たちの隣人になっているのです。こうした人たちに対する社会の寛容さは不十分と感じています。
JVTA 難民をとりまく問題がニュースで多く報道されていても、実感としては伝わりにくいのかもしれません。翻訳者はこの映画祭を通じて彼らの実情を多くの人に伝える使命がありますね。
今城さん 先日、何年も翻訳に携わってくれている翻訳者さんとお話ししましたが、本当にハートを持って取り組んでくれているのが伝わってきました。難民には自らの声を挙げる場がありません。声なき人の声を映画で拾い上げて伝えていく。映画にはそういう役割があるし、翻訳者さんがその趣旨を理解してくれているのは本当に心強く有難いです。
JVTA ありがとうございます。今年リオデジャネイロオリンピックに初めて難民選手団が参加し、注目を集めました。現在、難民といわれる人は世界にどのくらいいるのでしょうか?
今城さん 紛争や迫害によって住む家を追われている人の数は、2014年末には約5000万人、2015年末の時点ではさらに増えて6500万人を超えています。これは人類史上で最も大きな被害者を出した第2次世界大戦当時よりも多い数字です。その背景にはシリアで4~5年も続いている人道危機や南スーダン、中央アフリカ共和国、アフガニスタンなどの紛争があります。
同映画祭 記者会見より
JVTA ここ数年、難民に関する話題はテレビやニュースでも大きく取り上げられていますが、いわゆる「難民」とはどのような人たちなのか具体的に教えてください。
今城さん 難民条約では「難民とは人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人々」と定義しています。また、そうした難民とは別に国境を越えられずに国内で避難生活を続ける「国内避難民」も多くいます。実は今はいわゆる「難民」よりも国内避難民の数の方が多いのです。難民映画祭ではこの他に「無国籍者」に関する作品も取り上げています。
JVTA 「難民」と一言で言ってもその中にはさまざまな立場の人がいるんですね。「無国籍者」とはどのような状態なのでしょうか?
今城さん 無国籍者になる理由はとても多様です。例えば70年代にベトナム、ラオス、カンボジアからボートピープルと呼ばれた難民が、船やボートで日本やその他の国に逃れてきました。やがて彼らが辿り着いた場所で子どもが産まれます。しかし、日本で出生届けを提出する手続きも分からず、自国の大使館に出生届を出すこともできず、母国に帰ることもできずに育ってしまうとその子どもは「無国籍者」になるのです。今年の映画祭では、日本のテレビ放映用に制作されたドキュメンタリー『無国籍~ワタシの国はどこですか』を上映します。ボートピープル2世が日本でどのような生活を送っているのか、国籍やアイデンティティとは何かを問う内容となっています。
JVTA こうした「無国籍者」の背景について理解している人は少ないと思います。でも映画で観れば理解できますね。
今城さん そうですね。映画を通して当事者のことを知ることで、難民という一つのくくりではなく、身近な1人ひとりの個人の人間同士として見られます。数字では見えない部分を映画で知る。紛争や政治的なことが分からなくてもこの人を助けなきゃと思うことはできます。
JVTA 映画祭の開催期間だけでなく、大学での上映会なども推進されているそうですね。
今城さん 学校パートナーズとして青山学院大学や明星大学、明治大学、日本映画大学など16の学校に賛同して頂いています。本祭の期間中に捕らわれず、これまでの上映作品を各大学で自主上映を企画していただき、難民への理解を深めてもらうという試みです。翻訳者の皆さんが作ってくれた字幕もより多くの場で観てもらえると思います。本祭も今年はこれまでの仙台、札幌、東京に加え、新たに大阪でも上映をすることになりました。映画祭は、基本的には入場無料ですが、今年は事前申し込みという手続を取っています。お早目にお申し込み頂ければと思います。
◆事前申し込みはこちら(締切は9月21日)
https://www.japanforunhcr.org/form/event/
JVTA JVTAでも青山学院大学や明星大学で字幕制作を指導していて、学生の皆さんが字幕を手がけた作品も上映されます。若い人たちにもぜひ観てほしいですね。ありがとうございました。
今城さん ありがとうございました。
◆第11回UNHCR難民映画祭
http://unhcr.refugeefilm.org/2016/
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https://www.jvta.net/tyo/2016nanmin-senzakisan/
・【 難民映画祭:日本映像翻訳アカデミー 藤田奈緒さん】
※当校の同映画祭担当の藤田奈緒ディレクターのインタビュー記事を映画祭公式サイトに掲載して頂きました!
http://unhcr.refugeefilm.org/2016/interview_fujita_nao_san/