「第17回ニッポン・コネクション」 JVTA主催のレクチャーと英語字幕ワークショップをJVTAスタッフ・ジェレミーがレポート!
今年も世界最大級の日本映画の祭典「第17回ニッポン・コネクション」がドイツのフランクフルトで開催。現地入りしたJVTAスタッフのジェレミー・クールズは、山下敦弘監督や俳優の役所広司さんとお会いするなど、国際映画祭ならではの華やかな雰囲気を満喫してきました。毎年恒例のJVTAのレクチャーや英語字幕ワークショップも大盛況。会場の様子をジェレミーがレポートします!
◆「私」「あたし」「俺」「ボク」の訳し分けは?
JVTA、GCAIスタッフのジェレミーです。
JVTAプレゼンツのアカデミックなレクチャー「Back and Fast-forward: Tasks of Visual Media Translators」には、約30人のオーディエンスが参加。講師は、JVTAの日英映像翻訳科の監修者であり、明治学院大学 准教授のローランド・ドメーニグ氏です。ドメーニグ氏は日本映画史を専門とし、映画祭のキュレーターやプログラマーとして国際的に活躍するほか、『もののけ姫』のベルリン映画祭出展用ドイツ語字幕翻訳を手がけるなど映像翻訳の経験もあります。『もののけ姫』に加え、昨今日本で大人気となっている旬な作品を取り上げながら、翻訳者が直面する課題について具体的に解説しました。
例に上げたのはスター・ウォーズの人気キャラクター、ヨーダのセリフです。彼の口調の特徴は、“Strong is Vader. ” “Save you it can.”や“Already know you.”など、主語や動詞の順番が倒置された独特な英語を話すことです。こういうところにヨーダのキャラクターが現れているので、やはり日本語字幕にも盛り込みたいですよね。でも字幕でその面白さを表現するのはとても難しい…。翻訳者は常にこうした葛藤をしているのです。参加者は日本のコンテンツに詳しい人が多く、皆、真剣にドメーニグ氏の解説に耳を傾けていました。
またこのレクチャーの中で大きな議論となったのは、一人称の使い方です。「私」「わたくし」「あたし」「俺」「おれ」「オレ」「僕」「ぼく」など、日本語には多くの「I」を表す言葉がありますよね。男女で違いがあるのも特徴です。でも、英語では「I」だけ。これは翻訳者にとって頭を抱える悩みどころです。ドメーニグ氏は、訳し分けの工夫やさまざまな考え方を解説していきました。日本語では「I」の使い分けでキャラクラーや他の人物との関係性までも表現することができます。しかし、これを英語字幕にして同じように伝えるのはかなり困難なこと。レクチャーの終了後も数名がドメーニグ氏のもとへ集まり、それぞれの考え方を真剣に話し合うなど、参加者の熱が伝わってきました。
そして、私ジェレミーが担当したサブタイトリング・ワークショップには約40名が集まりました。30度を超えているのにエアコンがない部屋の中はまるで“サウナ状態”に! 日本語ができる参加者は少なかったのですが、英語、日本語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、ギリシャ語など多言語の翻訳経験者が多く、グループディスカッションを経て、それぞれにいい英語字幕を作ってくれました。
多国籍の参加者が集まったこの日、面白かったのは欧米と日本の文化の違いです。ある作品の一場面で、主人公が子どもの乳歯が抜けた話をしながら屋根に向かって物を投げるしぐさをしています。私ははじめ、この場面の意味が分かりませんでした。でも、日本では永久歯がきれいに生えるように、上の歯が抜けたら床下へ、下の歯が抜けたら屋根上に投げる習慣があると知り、文化の違いを伝える難しさを改めて感じました。私の母国、イギリスには「Tooth fairy」の言い伝えがあります。子どもたちが抜けた乳歯を枕の下に入れておくとTooth fairyがやってきて、乳歯をコインに替えてくれると言われています。字幕ワークショップの会場でドイツやアメリカの人にも聞いてみたのですが、やはり「Tooth fairy」が浸透しているようでした。逆に日本人の参加者は「Tooth fairy」を知らず、お互いの文化を語り合う貴重な機会となりました。この短いシーンで、習慣の違いを解説する余裕はない、でも屋根に投げようとしている意味が分からない…。どうするのがベストなのかについて、意見を出し合い、話し合えたのは、多国籍なイベントならではの面白さでした。改めて英語字幕の面白さや奥深さを知ってもらえるいい機会になったと思います。
ワークショップ終了後、私は10人ぐらいの方から映像翻訳について質問を受け、皆さんの関心の高さを改めて感じました!
◆「第17回ニッポン・コネクション」公式サイト
http://www.nipponconnection.com/nc-2017-japanese.html