明けの明星が輝く空に 第52回:存在感のあるミニチュア
特撮作品に登場するミニチュアの建物は、時代劇の大部屋俳優に似ている。『桃太郎侍』や『暴れん坊将軍』に、バタバタと倒されていく端役たちは、斬られっぷりの見事さも含め、主人公の強さを表現するために欠かすことのできない存在だ。怪獣が破壊する建物も、その点で変わりはない。体当たりでガラガラと崩れたり、怪光線で爆発したりする場面があってこそ、怪獣の脅威は視聴者に伝わるだろう。
でも、そんな重要な役割を与えられながら、ほとんどの特撮セットのミニチュアは大部屋俳優同様、記憶に残らない。たいていが、特徴のない四角いビルなのだから、それも仕方がないだろう。ただそれだけに、実在するランドマーク的な建造物が登場すると、強い印象を残すことにもなる。代表的なのものが、お城の天守閣や東京タワーだ。
『モスラ対ゴジラ』に登場した名古屋城は、高さがゴジラの背丈ほどもあって重量感たっぷり。貫禄という点では、日本の怪獣王にまったく負けていなかった。『ウルトラマン』の第27話「怪獣殿下 後編」に登場した大阪城も、実に堂々とした外観だ。そして、普通のビルのように簡単に破壊されたりしない。屋根や壁が崩されていく中、骨組みはしっかりとしたまま。まるで、リング中央で仁王立ちしたヘビー級ボクサーが、ノーガードで「もっと打ってこい!」と言っているかのような雰囲気だ。最後はほとんど跡形もなく壊されてしまうけれど、その“やられっぷり”は見事だった。
また、東京タワーほど、数多くの特撮作品に登場した建造物もないだろう。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督が“大スター”と呼ぶほど、特撮界では別格の存在だ。城の天守閣とは対照的に、すらっとした細身のスタイル。無粋な四角いビル街の中、赤い衣装をまとったその立ち姿は、特撮セットの貴婦人といっても過言ではない。華奢なだけに、初代ガメラにはあっけなく根元から倒され、『ウルトラQ』ではガラモン(第16話「ガラモンの逆襲」)に簡単にへし折られてしまうが、それはそれで潔い“やられっぷり”とも言える。
東京タワーが特撮界の大スターと言えるのは、登場回数の多さや見た目の美しさだけが理由ではない。ただのやられ役ではなく、物語の展開上、重要な役割が与えられていたからでもある。『モスラ対ゴジラ』では、モスラ(幼虫)が折れた東京タワーの根元に繭を作った。「成虫になる前に何とかせねば、東京は破滅する」という緊迫感が、物語中盤の見せ場になっている。『キングコングの逆襲』では、コングとロボットのメカニコングが東京タワーによじ登って戦う。この場面が映画のクライマックスだった。
そして、やられる一方ではなかったことも、東京タワーが他のミニチュア建造物と一線を画している点だ。『ウルトラQ』の怪作、第19話「2020年の挑戦」では、(東京タワーから)光線を発してケムール人を倒している。おそらく、戦闘目的ではない一般の建物によって、怪獣・宇宙人が倒された唯一の例だろう。そういった意味でも、東京タワーは特撮界の大スターと呼ばれるにふさわしい。
天守閣や東京タワー以外にも、印象に残るミニチュア建造物は多い。国会議事堂や国立競技場、銀座・和光のビル、黒部ダム、凱旋門などなど。不思議とお寺の五重塔は登場していないようだけれど、怪獣と並べればいい絵になりそうだ。東京ビッグサイト(東京国際展示場)のようなユニークな形のビルや、サグラダファミリアのような巨大聖堂も面白い。果たして東京スカイツリーは、東京タワーの地位を脅かせるだろうか。そんな特異な目線で建築物を楽しめるのも、特撮ファンならでの特権(?)に違いない。
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【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
【最近の私】
今季のWリーグ(女子バスケ)は、女王JX⁻ENEOSが6連覇。でも敗れたデンソーの戦いには、心を揺さぶられるものがあった。来季の活躍が、今から楽しみだ。
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