VOL.192 日本から楽園が失われていく
「楽園」という言葉をネットで画像検索すると、そのほとんどが青い海と空、白い砂浜、ヤシの木という南の島だ。私たちにとっての「楽園」のイメージには、きれいな海が欠かせないということだろう。ちなみに辞書によると、楽園とは「悩みや苦しみのない、幸福に満ちた場所」だそうだ。
僕にとっての楽園もやはり海だ。砂浜で好きな本を読んだり、波にもまれながら遊んでいたりするだけで本当にハッピーになれる。時間があるなら海外や沖縄、小笠原まで行きたいところだが、そこまで行かなくても、東京の近くにだって素晴らしい海はある。僕のおススメは、静岡県の下田辺りだ。白浜や外浦、吉佐美大浜、田牛(とうじ)といったビーチ(海水浴場といったほうがしっくりくるが…)は、どこも砂は白くてキレイだし、水の透明度も沖縄の海と同じくらい高いと言われている。南国気分とまではいかないが、海のよさを十分に堪能できる。あくまで僕の好みで下田を挙げたが、もちろん、千葉や茨城といった東京から日帰りで行けるようなところにもいいビーチがある。
ところで先日、朝のワイドショーで気になる特集を見た。日本の海水浴場の数が、ここ10年ほどの間にどんどん閉鎖されているというのだ。特に遠浅の砂浜が約66kmも続くことで有名な千葉の九十九里浜や、水の透明度が高いビーチが多い日本海側でその数が減っているという。主な原因は、砂の供給量の減少。例えば九十九里は、砂浜の南側にある太東岬と、北側ある屏風ヶ浦というそれぞれの崖が波に削られ、その土や岩が海岸線に堆積して砂浜ができあがったのだが、現在は、両側の崖に消波堤が作られ、崖の表面がコンクリートで固められてしまったことで、崖が削られなくなり、砂が海岸に供給されなくなってしまった。それによって砂浜の面積が減った上に、遠浅だった海辺の水深が深くなり、海水浴場には適さなくなってしまったという。日本海側の減少の理由も同じような感じだ。つまり、海岸線に人の手が入ったことがその原因なのだ。自治体や国が手を入れる理由にはきっと様々なことがあり、やめようと言ったところで一朝一夕には解決できないだろう。しかし、僕らのようにたまに遊びに行く程度の人間にとっても、そこで暮らす地元の人にとっても、この事態は決して「いいこと」ではないはずだ。
“すぐには解決できないだろう”とは書いたが、僕ら一人ひとりにできることはある。海外でもなく、遠くでもない場所に自分にとってお気に入りのビーチを見つけ、そこに楽園を感じるのだ。多くの人がその想いを持てば、日本から楽園が消えてしまうことは絶対にない。
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Written by 丸山 雄一郎(マルヤマ・ユウイチロウ)
学生時代から本校代表である新楽直樹に師事し、ライターとしてデビュー。小学館などで活躍後、現在は『週刊現代』『FRIDAY』(講談社)などで編集、ライターとして活動中。JVTAでは米メディアサイトの日本版の最終チェック、日本語表現力強化コースの主任講師などを担当。
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ vol.192 8月のテーマ:楽園
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。同じ目標を見つめる修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。