音声ガイド付き舞台が大盛況
視覚障害者からも称賛の声
8月31日(日)、中野区の野方区民ホールにて、当校バリアフリー講座の修了生が主宰する劇団、ものがたりグループ☆ポランの会が『銀河鉄道の夜』を音声ガイド付きで上演しました。音声ガイドの原稿は修了生の持丸愛さん、彩木香里さん、原ミユキさんが制作し、監修は河野雅昭講師が務めました。受付では音声ガイドを聴くためのFMラジオの貸し出しや、点字のカタログを配布し、来場した多くの視覚障害者の皆さんに楽しんで頂きました。開演前には舞台装置や衣装に触れるガイドツアーも開催。ちなみに、主演の飯田荘平さんと演出の小川智代さんも修了生です。
開演前に舞台に上がってセットや衣装に触れるガイドツアーで参加者に人気だったのは、“AKB”をイメージしたという超ミニスカートの車掌のコスチューム(写真)。肩に金の肩章、胸にはゴールドのチェーンやボタンが付けられ、動きに合わせてシャラシャラと音がします。参加者からは、「言葉でミニスカートと聞くよりも、実際に布に触れてみて『うわ!短い』と実感できた」「ミニスカートの裾のカラフルなフリルの色を聞いてイメージが広がった」との声があがっていました。
開演約10分前からは音声ガイドの事前解説がスタート。「舞台装置」「音楽」「衣装」に加え、キャストやスタッフの名前や近況、特徴などがコンパクトに紹介されました。「舞台は横10メートルに奥行が7メートル」「銀河鉄道を思わせるセット、中心のステラは1辺約160cmの正方形、その周りに放射線状に7つのオブジェがあり、この全体をプラネットと呼びます。その上には天幕がつられています」「主役ジョバンニ役は身長160cmの色白男子、飯田荘平。バンド活動をするほか、シェイクスピア俳優でもあります」「鳥捕り役はハイヒールを履くと身長180cm近くになるモデル出身の彩木香里。羽のついたベストの下はスパンコールのブラジャーのみというセクシーな衣装です」と視覚から得られる情報がふんだんに盛り込まれていました。
この日の公演は原作の地の文を語り、セリフを役者が合わせる「語り合わせ」というスタイル。本編では、語りやセリフを聴いているだけでは分からない役者のしぐさや衣装、舞台装置の動き、シーンによって変わる照明の色などを音声ガイドで解説し、見える人も見えない人も同時に臨場感を味わえる工夫がこらされていました。
カーテンコールの音声ガイドでは、「鉄道をイメージした振付けでダンス。そして全員で決めポーズ!」「4人のうちなぜか1人は踊らずにエアギター中です」などステージ上の動きをユーモアたっぷりに紹介していました。最も効果的だったのは、「語りの、みうらたかしは読んでいるのではありません。物語全体をそらんじていたのです」というガイド。みうらさんの滑らかな語りを聴くだけでは、誰もが原稿を読んでいると思ったはず。音声ガイドがあったことでみうらさんの熱演をぐっと強く印象づけただけでなく、出演者全員が登場した賑やかなステージの様子を客席全員で楽しむことができました。
ガイドツアーに参加した後に本編を鑑賞した視覚障害者のはるみさんに感想を聞いてみました。はるみさんは音声ガイド作りのモニターとしても活動されています。
はるみさんのコメント
「実際に舞台に上がり装置に触れたうえに、装置の上の白いボールに乗った状態でセットを回してもらうという体験もできて楽しかったです。衣装にも触れて生地や形、色、スタッズやスパンコール、チェーン、羽といった飾りの説明をしていただいたことで、劇中の様子を思い浮かべるのに大変役に立ちました。今回は、目を閉じて語りを聞きながら、楽しんだ部分が多かったのですが、ガイドが良くできていたので、すぐにお芝居に入り込めました。私の中で、登場人物が生き生きと動き、銀河の星たちが輝いていました」
「舞台、衣装の説明に加え、事前に配役を流してくれたことも、とてもよかったです。
一緒に行った晴眼者の友人も音声ガイドを聞きながら、目を閉じて楽しんだそうで、『音声ガイドがあるとわかりやすくていいね』と言っていました。また、初めてかぶりつきで舞台を観て、役者さんたちの息づかいまで感じることができてとても良かったそうです」
客席後方のブースから舞台を見守りながらこの音声ガイドを読みあげたのが修了生の原ミユキさんです。「リハーサルの度に芝居や舞台装置、照明の流れが変わり、音声ガイドは書き直しの連続で、最終原稿が出来上がったのは前日の通し稽古の後でした。これは映画やドラマにはない苦労でしたね。役者が物語の上で重要なモチーフである白いボールを持って去る動きを言い忘れてしまって『数が合わなくなる!』と慌てて後から入れたことも。責任重大な役目で緊張の連続でした」と話してくれました。
※終演後、修了生5人が衣装でポーズ!
左から原ミユキさん、彩木香里さん、小川智代さん、飯田荘平さん、持丸愛さん
JVTAでは、2011年にバリアフリー講座を開講。映像翻訳のスキルを活かし、視覚障害者のための音声ガイドや聴覚障害者のためのバリアフリー字幕を制作するスキルを教えています。修了生は、映画やドラマ、スポーツ、音楽、舞台とその活躍の場を広げています。ポランの会代表で修了生の彩木香里さんは「受講後、1年以上の試行錯誤を経て初めての音声ガイド付き公演が実現しました。まだまだ手探りですが視覚障害者の方の意見も聞きながら今後も続けていきたいと思います」と今後の抱負を語っています。
MASC×JVTA バリアフリー視聴用 音声ガイド&字幕ライター養成講座
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