News
NEWS
花と果実のある暮らしinCO

Vol.16 ハロー、
野良ちゃん!

Vol.16   ハロー、<br>野良ちゃん!

【最近の私】今年の2月にイギリス人を含む友人達と一緒に仕込んだお味噌が出来上がった。ツヤツヤ光るきれいな赤茶色のお味噌は、予想以上にまろやかで美味しい!異国の地チェンマイでも美味しい発酵食品が食べられることに感謝。と同時に、イギリス人も味噌を食べる時代になったんだなぁと実感。
 

5年前、私が日本から連れてきた愛犬が、突然その短い命に終わりを告げました。日本から共に異国の地で暮らし、離婚という辛い出来事に遭遇した時期を共に歩んでくれた愛犬だったので、私の心はすっかり空っぽになってしまいました・・・。
 

■野良ちゃんとの出会い
そんな虚ろな日々を送っていた私の所に、1匹の野良犬がやって来ました。沈む私を心配した縫製のおばさんが連れてきた、初代野良犬、ジプシーです。

ジプシーのような野良犬は、チェンマイには今でもたくさんいます。セブンイレブンの自動ドアの前に寝そべる野良犬が、自動ドアが開くたびに店内の冷房で涼をとっている姿を見かけると、南国の野良犬だなぁと感じます。市場の野良犬は、商売人のおじさんに怒られながらも平気で歩いているし、お寺にいる野良犬はのらりくらり。チェンマイに住む野良犬は、お腹は空いていることもあるでしょうが、人との暮らしに縛られることなく生きているように見えます。

ジプシーもまた餌を求めて、以前の職場である孤児院にふらりと舞い込んで来たのでした。そして、その時からまた、犬たちとの生活が始まったのです。
 

我が家にやってきた初代野良犬、ジプシー

我が家にやってきた初代野良犬、ジプシー


 

■野良犬の幸せとは?
初めはジプシーの扱いに戸惑いながら、シャンプーをしたり、注射をしたり。そうしていると、ジプシーは日に日に野良犬から飼い犬らしくなってきました。目も合わせず、舐めたりもしなかったジプシーが徐々に心を開いてくれるようになって、心が繋がっていくような嬉しい気持ちが湧きあがってきました。しかし、それは私の勝手な独りよがりだったのか・・・。その名の通り自由なジプシーには人との暮らしが窮屈だったのでしょう、私の日本帰国中にどこかへふらりと旅立ってしまったのです。

それから時を経て、チェンマイでの犬との暮らし方を徐々に変えてきました。現在一緒に住んでいるダムちゃんには、家と外を自由に行き来できるようにしています。そう、野良犬時代とほとんど変わらない行動パターンを取れるように暮らしているのです。

三代目野良犬のダムちゃん

三代目野良犬のダムちゃん

ダムちゃん、車も乗ったぞ!

ダムちゃん、車も乗ったぞ!


 

■犬は村のみんなで育てる?!
ダムちゃんは、うちではダム(タイ語で「黒色」の意味)と呼ばれていますが、右隣の家からは”チャオグルアイ(「黒い仙草ゼリー」)“、左隣の子どもからは”ダム・スリウォン(タイ語で高貴な家柄の姓)“と呼ばれ、さらに近所の外人さんは“Mr.ブラック”と声をかけます。みんなそれぞれお気に入りの呼び名で呼ぶのです。

やんちゃなダムはよく吠えるので、犬嫌いのガス屋さんは「黒い犬の家だね。僕が行く時はおさえててよ」というのが口ぐせで、その時はダムをおさえているのが私の仕事です。また、速いスピードで走るバイクが嫌いなダムは、発見するやいなや追いかけるのでライダーたちから嫌われています。

ある日、そんなダムに見知らぬおじさんが唾をかけようとしているではないですか!いくらやんちゃでもそれは許せません。「汚ない!」と怒る私。すると共に暮らすパートナーは「犬に唾をかけるのは、自分の匂いを犬につけて慣れ親しませ、吠えないようにさせる方法なんだよ」と教えてくれました。そうか・・・躾といえどもやっぱり汚いなぁ。ダムと村人のそんなやりとりを眺めながら、私は口出しをしないように心掛けることにしました。

一方で、少し成長して吠えなくなったダムを褒めてくれるおばさんがいたり、ダムが病気になった時には心配して寄付を包んでくれたご近所さんもいます。

ダムちゃんは村の中でみんなに育てられている。今ではそれをとても心地よく感じます。
 

いつものように近所の仲間にご挨拶

いつものように近所の仲間にご挨拶


 

■人間と犬と
振り返れば、日本で迎え入れた愛犬は、箱入り娘のように丁寧に、大事に育てました。一方で、チェンマイで出会った野良犬出身の犬たちは、村の中でワイルドに育っています。
動物も人間同様にこの村で生まれ、存在している――-。そんなあたりまえのようだけど実は多くの社会が見失ってしまった素朴で心地よいルールが、ここにはまだ残っているのです。(それも時間の問題かなという感じもありますが)

今日も散歩中に身体の全筋肉を思いっきり使って野原を走り、鳥を追いかけるダムちゃん。その姿を見て、“飼われていない犬”が持つ本能と美しさをあらためて実感したのです。

そして、きっと天国で思いっきり走りまわっているに違いない愛犬たちに想いを寄せるのでした。

野原に佇むワイルドなダムちゃん

野原に佇むワイルドなダムちゃん
 

【written by 馬場容子(ばば・ようこ)】東京生まれ。米国大学でコミュニケーション学専攻。タイ、チェンマイに移住し、現在は郊外にある鉄工房でものづくりをするタイ人パートナーと犬と暮らす。日本映像翻訳アカデミー代々木八幡・渋谷校時代の修了生。

 
 第15回 精霊が生き続けるチェンマイ
 第14回 幸運を呼ぶトッケー?!
 第13回 ニュートラルな村人たち
 第12回 敵?いや、味方? ロックな刺繍屋さん

 
▶ ブログ一覧