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明けの明星が輝く空に
第58回:回転飛行する大亀

明けの明星が輝く空に<Br>第58回:回転飛行する大亀

【最近の私】甘いだけのリンゴはおいしくない。やっぱり酸味がないと。最近、久しぶりに紅玉を店頭で発見。一口食べたら、爽快感が口の中に広がった。今のうちに楽しんでおきたい。
 

カメは空を飛ぶことができないけれど、ガメラは空を飛ぶことができる。
 

カメ型怪獣に空を飛ばせるとは、ガメラを世に送り出した大映も、ずいぶん突拍子もないことを考えたものだ。怪獣という存在自体が荒唐無稽なので、こんなことを言うのも変だが、怪獣だって地球上の生物である以上、翼なしに空を飛ぶというのには無理がある。その点、東宝の怪獣たちは律義なもので、モスラやラドンはちゃんと羽や翼を持っていたし、宇宙から来たキングギドラも背中から翼が生えていた。
 

ゴジラシリーズにも、『ゴジラ対ヘドラ』のヘドラのように、例外はあった。ただし、ヘドラは海底のヘドロから生まれたという設定で、現実世界の生物からは、かけ離れた存在だ。だからこそ、体全体を平たくして空気抵抗を減らし、揚力を得て飛ぶヘドラを、子どもたちは抵抗感なく受け入れられた。中には友だちに、「あれって空気抵抗が少ないから、速く飛べるんだぜ」などとうんちくを語った子どももいただろう。
 

では翼を持たないガメラは、どうやって空を飛んだのか。ご存じのように、足を甲羅の中に引っ込め、その穴から噴出する火炎の推進力で飛行するのだ。これもかなり突拍子もない発想と言えるが、怪獣映画の中の飛行能力の説明としては十分だった。なぜなら、炎を噴出して飛ぶのは、SF映画に出てくる宇宙ロケットと同じだったからだ。かくして、大亀が空を飛ぶというアイデアは受け入れられ、ガメラは怪獣界のスターダムにのし上がるのである。
 

ところで、カメが炎を噴出させて飛行するというアイデアは、いったいどこから来たのだろうか。ガメラは頭と前足を出したまま後ろ足だけを引っ込めて飛ぶ(飛行形態A)ときもあれば、四本の足全部と首も引っ込めて回転飛行する(飛行形態B)ときもある。僕はあれこれ考えているうちに、飛行形態Aが水墨画のカメ、つまりお尻の辺りに藻を生やした「蓑亀」に似ていることに気が付いた。水墨画に描かれた藻は、見方によっては炎のように見えないだろうか?
 

ところが今回調べて分かったのだが、ふたつの飛行形態は時系列でみると、Bが先だったことが判明。飛行形態Aはシリーズ3作目(『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』1967年)が初登場だった。前足と後ろ足の穴、合計4か所から炎を出すのでは燃料費がかさむ。しかし後ろ足の2か所にすれば、費用は半分で済む。こんな理由で、シリーズの途中に飛行形態Aが発案されたそうだ。
 

それでは、最初に飛行形態Bを思いついたのは、どんな発想からだったのだろうか。この飛行形態の特徴は、上述したように回転することだ。回転しながら空を飛ぶものといえば、まずUFOが思い浮かぶ。UFOの目撃証言は1940年代からあって、あの有名なロズウェル事件も1947年の出来事だ。ただ、日本でUFOブームが起きたのは1970年代なので、大映が話題を集めるためブームに便乗したということではないらしい。1951年には、UFOが登場するSF映画『地球の制止する日』がアメリカで公開されたが、映像を確認してみるとUFOは回転しないで飛んでいた。蓑亀説に続き、このUFO説も的を射た推理とは言えないようだ。
 

しかし、回転しながら飛ぶものと聞いて、思い浮かぶものはもう一つある。それは円盤投げの円盤だ。シリーズ1作目の『大怪獣ガメラ』公開前年、1964年には東京オリンピックが開かれている。日頃スポーツなど見ないという人でも、テレビ中継で円盤投げを見た人は少なくなかっただろう。くるくる回りながら豪快に飛んでいく円盤。「カメの甲羅もああやって投げたら、遠くまで飛びそうだ…。」テレビ中継を見ていた大映の誰かが、そんなことを考えたかもしれない。
 

ガメラの回転飛行というアイデアは、何をヒントにして生まれたのか。それを推理するにしても、僕の想像力ではここまでが精一杯だ。どなたかこの記事を読んでもっといい考えが浮かんだら、ぜひ教えていただきたいと思う。
 

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【written by 田近裕志(たぢか・ひろし)】
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
 
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