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“Viewer Discretion Advised!”inBLG

これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
第4回 ”Orange Is the New Black”

“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi 

 第4回“Orange Is the New Black” 

“Viewer Discretion Advised”は海外の映画・テレビ番組等の冒頭で見かける注意書き。「バイオレンスやセックス等のコンテンツが含まれているため、視聴の可否はご自身で判断して下さい」という意味。

 
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社にその道の才人たちが集結し、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。

 
“Weeds”のクリエーターによる「女性版:塀の中の懲りない面々」
“Weeds”は、メアリー=ルイーズ・パーカー(!)が主演したセクシー・ブラックコメディの傑作だった。そのクリエーター、ジェンジ・コーハンの新シリーズと聞けば、観ないわけには行かない。”Orange Is the New Black”は、圧倒的な斬新さでアメリカン・ドラマに新風を吹き込み、コメディドラマの定義を書き換えてしまった。

 
主人公のパイパー・チャプマン(テイラー・シリング)は、ある日突然わけも分からぬまま逮捕され、15ヶ月の間NYの連邦女性刑務所で過ごすことになる。ブロンド美人で企業家の卵、しかもスーパーナイスガイの婚約者ラリー(「アメリカン・パイ」のジェイソン・ビッグス)までいるのに、なぜそんなことに? 実はパイパーは10年前にレズビアンの麻薬ディーラー、アレックス(“That’s 70th Show”のローラ・プリボンが妖艶に演じる)と恋に落ち、一度だけ彼女のためにドラッグマネーを運んだことがあった。そのアレックスが最近捕まり、減刑のためにパイパーを巻き込んだのだった。

 
パイパーを震撼させる女囚仲間は、まるで“American Horror Story: Freak Show”の面々だ。まずロシア人の巨漢シェフ、”レッド”を“Star Trek: Voyager”のケイト・マルグルーが怪演する。パイパーにひと目惚れするのは、断続的に精神異常を起こす“クレイジー・アイズ”(ユゾ・アデュバ)。さらに殺人鬼だと噂される老女、カルトの教祖、謎のヨガ・インストラクター、存在しない婚約者を待ち続ける娘、トランスジェンダーの元消防士、アスリート出身のギャングなどなど。そしてとどめがアレックスだ。

 
「カッコーの巣の上で」のライトバージョンか
最初はあまりにアクの強いサブキャラたちに引いてしまう。だがエピソードが進み、玉ねぎの皮をむくようにフラッシュバックで彼女たちの過去が語られるに連れて、一人ひとりを理解できるようになる。「なぜ服役する状況に陥ったのか」、「刑務所で過ごすとはどういうことなのか」、「塀の向こう側とこちら側にいる人間と、さほど違いはないのではないか」、そんなことが分かってくる。これが意外と深いのだ。

 
パイパーは刑務所のルールに困惑し、ムショ仲間から嫌がらせを受け、看守長から憎まれながらも、次第にタフでリーダーシップのある自分に気づき始める。シャバでけなげにも彼女を待ち続ける婚約者ラリーと、アレックスとの間で気持ちも揺らぐ。バイセクシュアルのパイパーの魅力はシーズン半ばから飛躍的に高まり、存在感も増す。しかも各キャラクターに深みが出ることによる相乗効果か、コメディとしての面白みが増幅される。

 

刑務所ドラマというと“Prison Break”、“OZ”などが頭に浮かぶが、「男の刑務所」が舞台だとどうしてもストーリーがバイオレンスに偏ってしまう。その点本作では(暴力シーンはあるものの)、キャラクターの掘り下げ、心理描写、ストーリー展開に、より重きが置かれている。白人、黒人、ヒスパニックが入り乱れての差別やLGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, and Transgender)もストーリーを語る上で欠かせないが、説教くさいところはない。ナンセンスなコメディの要素と、ユニークなドラマとしての懐の深さ・寛容さが、融合というよりスイッチのオン/オフのように切り替わる。さながら「カッコーの巣の上で」のライトバージョンだ。ジェンジ・コーハン、恐るべし。

 
今秋からNetflixで配信開始!

“~is the new black”は、「~が流行」とか「~が新基準」という意味のよく聞く言い回しだ。例えば“Glee”のシーズン5に、こんなセリフがあった。
“You’d best check your spectrum, Queen T…because orange is the new black, and unique is the new GaGa.” (“GaGa”は勿論レディー・ガガのこと)

 

“Orange is the New Black”は今年の6月からシーズン3がスタートする。他のドラマでは味わえない、シリアスドラマとコメディの間を行ったり来たりするこの作品の得がたい魅力をぜひ体感して欲しい。現在日本ではアマゾン・インスタントビデオで観られるようだが、本作品の製作会社であるNetflixが今秋から日本でのストリーミング配信を始める。本作や「ハウス・オブ・カード」が全エピソード、一気に観られるようになると、会社での居眠りが増えちゃうね。

<今月のおまけ>「心に残るテレビドラマのテーマ」③ “Incredible Hulk” (1977-1982)

(テレビドラマ史上最も哀しいテーマソング!)

 
写真Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。

 

 
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