【新連載】“Viewer Discretion Advised!”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第1回 『24: Live Another Day』
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社にその道の才人たちが集結し、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“Jack Bauer is back!”
全米で9月30日に発売された、『24: Live Another Day』のDVDがAmazonから届いた。シーズン8から4年ぶりの『24 TWENTY FOUR』に、感極まって目頭が熱くなる(1か月前、デレク・ジーターの引退に涙したばかりなのに)。土曜日まで何とか我慢して、ワールドシリーズのテレビ中継が終わるや否や、ノンストップで観た(今回は24話ではなく12話完結なので楽勝だ)。結論から言うと、「会社を休んでも観るべし」、「借金してでも観るべし」、「明日のために観るべし」。ジャック・バウアーは完全復活した。キーファー・サザーランドはアクションの切れ、シャープなセリフ回し、ともに全く衰えを感じさせない(クローズアップはちょっと辛いが)。
『24』がスタートしたのは、私がヒューストンに駐在していた2001年11月6日。9月11日のワールドトレードセンターへのテロ事件直後だ。当初は、米国内のテロリズムを生々しく描くストーリーと過激な暴力描写が非難を浴びた。だが、面白いものは面白い。第1話でハマった私は、その後8年の間、地元で『24』の布教活動に努めた。当時JVTAのウェブサイトに新作映画のコラムを載せて頂いていたが、恒例だった「Texas Movie Awards」で、『24』を2001年度の「ベストテレビドラマ」に選んでいる。
結局、『24』は世界中の熱狂的なファンに支えられて、8シーズン続くFOXのメガヒットシリーズとなった(サム・ペキンパーの有名な発言「私は暴力が嫌いだ。吐き気がする。でも、娯楽としてはいいじゃないか」を思い出す)。
話を戻すと、今回の舞台はロンドン(因みに、キーファー・サザーランドはロンドン生まれ)。冒頭、CIAロンドン支局の精鋭部隊が郊外の倉庫を急襲する。すると、反撃してくるのは4年間FBIの指名手配リストのトップにあるジャック・バウアーではないか!だがロンドン支局最高のエージェントであるケイト・モーガン(イヴォンヌ・ストラホフスキー)は、ジャックの一連の行動に疑問を抱く(ケイトは本シリーズで大活躍する)。一方、その頃アフガニスタンでは、アメリカの無人標的機ドローンが突然コントロール不能になり、味方を攻撃し始める。ストーリーはこれ以上書かない。あの「24節」(=異次元のスピード感が、さほど緻密とは言えない脚本を確信犯的に覆い隠し、視聴者のアドレナリンをあふれさせる)が健在だとだけ言っておく。
その他の主要登場人物では、国防長官だったジェームズ・ヘラー(ウィリアム・ディヴェイン)は合衆国大統領となっている。その娘でジャックの元恋人オードリー(キム・レイヴァー)は、ヘラーの側近マーク(テイト・ドノバン)と結婚している。行方不明だったクロエ(メアリー・リン・ライスカブ)はエグい別人メークで登場(ただしDVDボックスの写真のようなシーンはない)。CIAロンドン支局長スティーブ・ナバロを、“Law & Order”のベンジャミン・ブラットが演じている。
さて、どうやって24時間を12話に納めたのかというと、これがすごい。何と視聴者の目の錯覚を利用して2倍速で見せるのだ・・・というのは冗談。実際は11話までこれまでと同様リアルタイムで流して、最終回の途中で“twelve hours later”と出るだけ。何の工夫もないが、他にやりようもないか。
ジャック・バウアーはテロリストとの戦いで、妻を殺され、恋人を失い、ヘロイン中毒になり、拷問され、殺人ウィルスにも感染した。にもかかわらず前シーズンでは敵国ばかりでなく母国からも指名手配された。今シーズンのラストシーンも非情だ(また泣ける)。心身ともにボロボロになり、圧倒的な孤独にじっと耐えるその姿はあまりにも哀しく、孤高のヒーローと呼ぶには傷つき過ぎている。
それでもまた次のシーズンに期待してしまうわれわれは、何と残酷なのだろう。
*日本版DVDの発売は来年3月4日。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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