今30代~40代の男性に話題 大人の男が泣ける『青い約束』
11月のテーマ:クール
今、30代~40代の男性に熱く支持されている小説『青い約束』(ポプラ文庫)をご存じだろうか? 同書は2007年に『夏の光』のタイトルで刊行。2012年に加筆され『青い約束』として文庫化された。当初はあまり反響がなかったそうだが、ある書店でビジネスパーソン向けの平棚に並べたところ、“男が泣ける名作”としてじわじわと人気を集め、現在13刷10万部を突破しているという。
主人公は証券会社のアナリストの宮本修一、40歳。国債の金利や価格の見通しについて、企業の一員という立場から言うべきこと言えずに葛藤している。また数年前に離婚し、1人息子とは月に1度しか会えない。ある日、彼は、取材先の財務省で高校の同級生で現在は新聞記者となっている有賀新太郎に20数年ぶりに再会する。2人は高校時代、共にボクシング部に所属する“親友”だった。しかし、高校3年の夏、同級生で宮本の恋人、瀬尾純子の突然の死をきっかけに決別したまま有賀は東京へ出て行き、その後会っていなかった。
著者は現役の新聞記者である田村優之氏。田村氏はあるインタビュー記事に、「あのとき開けなかったドアの向こうや曲がらなかった道の先に何があったんだろう? そんな思いをずっと引きずったまま40代を過ぎた頃、この物語を書いた」と話している。実際この作品には、光に包まれたまぶしい高校時代と、仕事で関わっている経済問題や複雑な家庭の事情に直面している40代の今が交錯しながらどちらもリアルに描かれている。この恋愛小説とビジネス小説という2つの絶妙なバランスが男性読者の心を掴むのだろう。帯にある「これは現代版『こゝろ』とも言える作品」(50代男性)というコメントも頷ける。また、映像が鮮やかに浮かぶような描写が多く、「何かをまぶしがっているように目を細める、とても懐かしい微笑み」「高校時代のままの左手で書いたようなへたくそな字」「彼と一緒に過ごした頃、自分も光に包まれていた」など、ぜひ映像化してほしいと思う印象的な場面が随所に散りばめられているのも魅力だ。
女の立場からみると、殴り合いのケンカをして20年後も消えない傷跡を残しあってもなお、深いところでつながっていられる男同士の友情は“クール”だなと羨ましくなる。たった2、3年の付き合いの後、何10年も会えなくても一生の親友と呼べる、そんな友情もあるのだと。終盤で純子の死の真相が紐解かれ、2人はやっと本当の意味での“親友”に戻れるのだが、そのラストシーンはあまりにも切ない。ネタバレになるのでこれ以上は言わないが、クライマックスは絶対に電車の中では読まないほうがいい。特に男性は。心おきなく泣ける場所で、思わず何度も読み返してしまう結末が待っている。きっとあなたも遠い記憶の中の“誰か”に会いたくなるはずだ。
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Written by 池田 明子
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ vol.196 11月のテーマ:クール
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。同じ目標を見つめる修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。