明けの明星が輝く空に
第61回:あなたの駅の怪獣は?
【最近の私】プロ野球がキャンプインした。僕はキャンプのニュースを見るのが好きだ。試合自体よりも面白いかもしれない。目標に向かって努力を重ねる姿に、「やる気」を掻き立てられるからだろうか。
1月13日から2月27日まで、首都圏のJR64駅で「JR東日本 来たぞ我らの! ウルトラマンスタンプラリー」が開催中だ。ターゲットは40代・50代のお父さん世代で、スタンプの絵柄に使用される怪獣や宇宙人などのキャラクターは、ウルトラシリーズの初期4作品(『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』、『帰ってきたウルトラマン』)に限定されている。各駅でキャラクターは異なっていて、たとえば新橋駅はウルトラセブン、東京駅はベムスター、渋谷駅はスカイドンといった具合だ。
「ウルトラセブンはともかく、ベムスター? スカイドン? 」。特撮ファンでもなければ、きっと名前を聞いたこともないだろう。では、超有名どころのウルトラマンやバルタン星人はどこの駅かというと、武蔵野線が通る南流山駅と宇都宮線などが乗り入れる尾久駅である。失礼を承知で言わせてもらえれば、僕は「尾久」を「おく」と読む(地名の場合は「おぐ」だそうだ)ということ以前に、その存在すら知らなかった。「ウルトラマンもバルタンも、特撮界の大スターなのだから、新宿駅や品川駅のような大きな駅がふさわしいのではないか」、そんなふうに思ってしまったが、選定方法を確認して納得した。各駅から希望のキャラクターを募り、それを元に抽選で決定したそうだ。バルタンをゲットした尾久駅は、“してやったり”だろう。ちなみに一番人気はウルトラセブンで、8駅からラブコールがあったとか。相変わらずの人気者である。
全64駅のキャラクターは、JR東日本公式ウェブサイトのラリーマップhttps://www.JReast.co.jp/ultraman-rally/index.htmlでチェックできる。そこには、バルタンほどメジャーではなくとも、ウルトラシリーズの大スターたちが、綺羅星のごとく名前を連ねている。ケムール人、カネゴン、ゼットン、キングジョー、ツインテール…。しかし、中にはリリーや異次元列車といった、「ん?」と思う名前も見受けられた。リリーは、精神が肉体を離れ、独自の意思を持って行動するようになった少女で、幽体となってさまざまな事件を引き起こす。異次元列車は、異次元の世界へと人を連れていく不可思議な列車だ。どちらも『ウルトラQ』に登場したが、こんなマニアックな選び方をした田端駅(リリー)と田町駅(異次元列車)の駅員さんたちは、相当“できる”人たちに違いない。リリーや異次元列車を知っているというだけでも、かなりの上級者だ。
もっとも、あらかじめキャラクターリストが作成され、それが各駅に配布されたという可能性が高いだろう。そうでなければ、東中野駅のマグラーは説明がつかないと思うのだ。マグラーは、3体もの大怪獣が共演する『ウルトラマン』第8話に登場。ウルトラマンと戦う前に、あっけなく科学特捜隊に倒されてしまった脇役怪獣で、「言われてみれば、そんなのがいたなー」程度の影が薄いヤツだ。きっと各駅がスタンプに使うキャラクターは、いくつかの希望が出せるようになっていて、リストを見ながら「ウケ狙いで、超マイナーなこいつも入れておこう」という遊び心で選んだのかもしれない。
今回のスタンプラリーに選ばれたキャラクターは、『ウルトラマン』からのものが64個中27個もある。『ウルトラQ』が12、『ウルトラセブン』が14、『帰ってきたウルトラマン』が11だから、その差は歴然だ。2011年にシリーズ45周年を記念して発表された、『円谷ヒーロー・怪獣&宇宙人ランキング!』)http://m-78.jp/45th/ranking.php参照)からも、それは読み取れた。人気投票の結果、は昭和・平成のシリーズ全作品の中で、怪獣部門のトップ3(1位は予想通りバルタン星人!)を『ウルトラマン』が独占。20位まで見ても、合計6体の怪獣や宇宙人がランクインした。一方、ヒーロー部門では、肝心のウルトラマンが7位にとどまっている。(1位はウルトラマンゼロ。ゼロは発表当時もっとも新しいウルトラマンだったのに加え、2位に入ったウルトラセブンの息子という設定が効いたか?)『ウルトラマン』の人気を支えていたのが、怪獣や宇宙人たちだったことがよくわかる。
今回のラリーマップを見ながら、自分の好きな怪獣がどこの駅だとか、いつも使う駅の怪獣は何か、などとチェックするのも楽しい。そんな中、思わずニヤッとさせられる組み合わせを見つけた。それは、金町駅(常磐線)とカネゴンだ。よく見ると、亀有駅(常磐線)とガメロンとか、神田駅とガンダー、駒込駅とゴメスなんていうものもある。こんなところも、お父さん世代向けのイベントらしくて、いいではないか。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている
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明けの明星が輝く空に written by 田近裕志
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る