発見!キラリ★大切なのに忘れがちだった存在。
2月のテーマ:ぬくもり
気付いたら一日の殆どの時間をパソコンの画面に向かって過ごしていた。
という事はないだろうか。パソコンさえあれば、知りたい情報は、人と話さずとも容易に手に入り、見たい映像もいつでも見ることができる。電子メールやSNSを使えば、友人や知人と簡単に連絡も取り合える。以前は文字情報だけでは、行間を伝える事が難しいと言われていたが、携帯電話の絵文字やスタンプを使えば、感情の機微の伝達に大いに貢献してくれる。人との繋がり方が多様化する事は決して悪いことではない。私もSNSを活用している。でも、紡いだ言葉を売ることを生業としている人間としては、それでだけでは何か足りない気がしてならない。
メディアの表現者は何に労力を使っているのだろうか? 自分が生み出した言葉で、誰かが笑い、励まされ、感動する。観客や視聴者、読者にそんな体験をして欲しくて、セリフの中身やタイトルといった文字面だけではなく、トーンやリズムと真剣に向き合い、表現を頭から絞り出す。映像翻訳者であれば、映像制作者の思い、登場人物の思い、受け取る側の思いを徹底的に考え抜き、「作品に込められた思いを余すことなく伝える」という一点に、今まで培ってきたスキルの全てを注ぐ。つまり、誰かの「思い」を感じる心こそがとても大事なのだ。
プロの表現者、プロの表現者を目指す人間が、多くの書物や映像作品に触れ、さまざまな言い回しや表現の仕方を習得していくのも確かに大切だ。知見を広げていくことには限界など存在しない。ただ、「思い」を言葉にするには、実際に相手と向かい合う深いコミュニケーションが必要だ。なぜなら表現者本人の実体験から生み落とされた言葉には、重さがあり、その言葉が醸す強さや、迫力が違う気がするからだ。自分が発する何かが正しく人に伝わった瞬間に感じる喜び。その反対に、自分の言葉が意図することとは違う形で相手に届いてしまった時の悔しさ。言葉で「思い」を伝える上で湧くさまざまな感情や葛藤を実際に体験しているほど、その人の紡ぐ言葉には説得力が生まれると思うのだ。
冬の寒さというのは、人と人が顔をつき合わせ言葉を交わす状況を自然と生み出していた。火を囲む、囲炉裏を囲む、炬燵を囲む。囲んだ内側には大抵「暖」があり、「ぬくもり」があり、「団欒」がある。人々が何かを囲むと「輪」になり、「和」が生まれる。自分と誰かの間で何かが伝達する。しかし昨今、冬に何かを囲むという状況が確実に減ってきている。手軽な暖房グッズ、気密性の高い住宅、床暖房の台頭などで私の日常から炬燵の姿はすっかり消えてしまった。電車の中吊りで「こたつでミカン」という英会話学校の中吊りを見てしばらくぶりに思い出した存在。炬燵があると人が引き寄せられるように集まり、そこには自然と「団欒」が生まれていた。私にとって“冬の堕落アイテム”だった炬燵だが、今となっては懐かしくさみしい。仕事の多忙さゆえに、食事さえパソコンに向かいながら過ごす日が続くと、“炬燵で”とは言わないまでも、ランチくらい同僚と「食卓を囲む」時間としてとるべきではないかと心から思う。「和」な場所に身を置く事は、表現力の鍛錬に確実に繋がると思うからだ。しかも、それは、楽しい時間である確立が断然高いのだ。
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Written by 浅川 奈美
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 2月のテーマ:ぬくもり
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。同じ目標を見つめる修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。