これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第5回 “Sons of Anarchy”
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第5回 ”Sons of Anarchy”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社にその道の才人たちが集結し、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
アメリカ人A 「今、一番面白いテレビドラマは何だい?」
筆者 「”Sons of Anarchy”だね。でもうちの奥さんはこれが大嫌い」
アメリカ人B 「うちもそう。バイオレンスが過剰だって」
日本人C 「わが家もまったく同じ。でもやめられない」
これは昨年末、仕事でアメリカ出張の際に実際にあった会話。期せずして男4人の意見が一致した。“Sons of Anarchy”は滅法面白いが、奥さま方からは総スカンを食っている(それが日本で放映されない理由かも)。
カリフォルニアの無法者集団
舞台はカリフォルニアのチャーミングという架空の町。正式名称は“Sons of Anarchy Motorcycle Club Redwood Original” (通称“SAMCRO”)で、今は亡きジョン・テラーにより創設された。SAMCROは表向きこそハーレー・ダヴィッドソン愛好者たちが営む修理工場だが、実はIRA(アイルランド共和国軍)から供給される武器の密輸が本職。全員が白人男性の無法者集団だが、麻薬とドラッグには手を出さない。
主人公はジョン・テラーの息子でSAMCRO副長のジャックス・テラー(チャーリー・ハナム)。ジャックスは父親同様に頭脳明晰な戦略家だ。その義理の父親でSAMCRO現会長がクレイ・モロウ(ロン・パールマン)。ジャックスとクレイはやがて対立するようになるが、この2人に強い影響力を持つのが、今はクレイの妻でジャックスの実の母親でもあるジェマ・テラー・モロウ(ケイティ・セガール)だ。さらにジャックスの幼馴なじみで外科医としてSAMCROを助けるタラ(マギー・シフ)、そして愛しきSAMCROの面々。これだけでも1級品の人間ドラマとして成立するのだが、本作ではそれも‘インフラ’に過ぎない。
このドラマ、各エピソードに漂う緊迫感はただ事ではない。バイオレンスは言うに及ばず、セリフにパワーとリアリティがあるからだ。銃器の使用はむしろ控えめで、単純に殴る蹴るという肉体による暴力の怖さ、痛みが観る者にダイレクトに伝わって来る。アクションドラマでなくバイオレンスドラマ故に、奥さま方が敬遠するのも無理はないのだが…。
ジャックス役のチャーリー・ハナムは「パシフィック・リム」では菊池凛子の尻に敷かれていたが、本作ではまったくの別人。才気あるイケメンマッチョを恐ろしくドスの利いた声でクールに演じる(地声なのか作っているのか不明)。クレイ役のロン・パールマンは言わずと知れた「ヘルボーイ」で、こわもて俳優の代表格。ジェナ役のケイティ・セガールは“Married… with Children”のコメディエンヌからのアッと驚く転身ぶりで、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞。この3人の駆け引きは見応え十分だ。
緻密な脚本が支える極上のバイオレンスドラマ
「優れた人間ドラマと迫力のバイオレンス」、本作はこれだけでは終わらない。何が凄いって、脚本が恐ろしく緻密で賢いのだ。武器商人のSAMCROにとって商売敵はヒスパニックギャング、黒人ギャング、チャイニーズマフィアだ。当然地元の警察、FBI、DA(地方検事)からも目をつけられ、武器供給元のIRAとももめごとが起きる。SAMCROに降りかかるトラブルの数々は並大抵のものではなく、解決するには脳ミソと度胸が必須なのだ。
絶体絶命のジャックスは、敵味方の複雑な利害関係を分析し、相手の心理を読み切り、繊細かつ大胆な起死回生の一策を立案する。そして交渉と暴力、嘘と脅し、休戦協定と全面戦争、アライアンスと司法取引などを巧みに駆使して窮地を脱する。血の絆で結ばれたSAMCROのメンバーは、どんなにみじめな状況に陥っても自分たちの責務を全うする。ジャックスにはオーラがあり、追いつめられると真のリーダーシップを発揮するのだ。鮮やかな逆転劇は優れた推理小説のようで、思わず「あ、この手があったか!」と唸ってしまう。
クリエーターは“The Shield”のカート・サター。この人は本当の才人で、本作でも製作総指揮、監督、脚本に加えて、SAMCROの服役囚オトーという重要なサブキャラを自ら演じている(この演技がまた壮絶)。因みに実生活ではジェマ役のケイティ・セガールがサター夫人だ。
本シリーズはシンジケート系(非民放系)のFXによる製作で、この局としては過去最高の視聴率を記録、シーズン7をもって昨年12月に終了した。尚、サターは本作の前日譚を製作予定とのことで、今から待ちきれない。
「優れた人間ドラマ」+「ド迫力のバイオレンス」+「緻密な脚本」、こんな組み合わせって観たことない!
<今月のおまけ>「心に残るテレビドラマのテーマ」④ “The Greatest American Hero” (1981-1983)
((これ、流行ったよね。歌手の名前は覚えてないけど)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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