明けの明星が輝く空に 第63回 第3のライダー
【最近の私】ハリウッド製でないゴジラ映画の新作が、制作されるらしい。総監督・脚本に庵野秀明、監督に樋口真嗣は、というドリームコンビ。この二人で面白くなかったら、未来永劫面白いゴジラ映画はできないでしょう。
映画『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』が、先月公開された。タイトルを見て、「ん?」と思ったオールドファンは少なくないだろう。なぜなら、3人目のライダーといえば、『仮面ライダーV3』(昭和48年2月~昭和49年2月放送)のヒーロー、V3のことだからだ。(ちなみに『仮面ライダーV3』第1話のタイトルは、『ライダー3号 その名はV3!』)。
『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』は、ライダー1号・2号が倒されたため、歴史が変わってしまったというパラレルワールドのお話だ。この映画で初登場となったライダー3号(演じるのはミッチーこと及川光博!)は、V3とは全く別の新キャラクターで、劇中では“3号対V3”という、本家争い(?)のシーンもあるという。デザインも造形もスタイリッシュなライダー3号は魅力的だが、僕が応援するのはやっぱりV3の方だ。歴代ライダーの中で、僕が一番好きなのがV3なのだから、当然のことだろう。
V3は、他のどのライダーよりも颯爽としていて、キラキラ輝いていた。華麗な空中殺法とけれんみたっぷりの決めポーズ、主演である宮内洋のさわやかなイケメンぶり。そして何より魅力的だったのは、ライダー1号と2号の力を併せ持ち、彼らに後継者として認められた特別な存在だったということだ。野球に例えれば、長嶋と王がそれぞれの打法を新人に伝授し、巨人の4番打者に指名したようなもので、V3はデビューした時からスターだった。番組を制作した毎日放送と東映としては、新番組を売り込む上で最高の戦略だったと言えるだろう。
劇中に登場する敵に関しても制作サイドは知恵を絞り、ユニークな怪人を生み出した。前作『仮面ライダー』(昭和46年4月~昭和48年2月)後期には、2体の生物の特徴を持った合成怪人が登場し、それまでの単体生物の怪人に比べ、強さを増した印象を与えていたが、『仮面ライダーV3』ではバズーカ砲やナイフ、ノコギリなど機械・道具と生物の合成怪人という、さらにパワーアップした怪人たちが登場した。中でも秀逸だったのが、1話と2話に登場したハサミジャガーだ。カニのように両手の先がハサミになっているわけではなく、刀のような形状の両腕を交差させ巨大なハサミとして使う。交差させなければ、それぞれ刀として戦えるという、実に斬新なアイデアだ。
スターとして生まれてきたヒーローに、パワーアップした怪人。ストーリーの流れを引き継いだ前作『仮面ライダー』をスプリングボードとして、『仮面ライダーV3』は絶好のスタートを切ることに成功した。
ところが、やがて視聴率に陰りが見え始めたという。その理由は定かではないが、怪人のアイデアがユニーク過ぎて、強さがストレートに伝わらないことが多かったせいではないだろうか。たとえば、右手がプロペラになっているプロペラカブトや、体に付いているリングを投げるワナゲクワガタの場合、「もっと武器になりそうな物を使ったら? 」と思ってしまう。プロペラや輪っかが武器では、人類の平和を脅かす敵としては物足りない。
視聴率低下という事態を受け、番組制作サイドは路線を変更。31話以降、『仮面ライダー』の原点である怪奇性に立ち返るとともに、個性的なネーミングの怪人を登場させるようになった。例えば“ドクロイノシシ”や“火焔(火炎)コンドル”などは、名前自体に怪人の特性が表現されていて面白いし、語呂もいい。『仮面ライダー』初期の“クモ男”や“コウモリ男”に比べると、そのあたりに工夫が見られる。ただ、単体生物の怪人は、合成怪人たちの後に登場したが故に、シンプルすぎて魅力に乏しく、番組がトーンダウンしてしまった。43話からは、悪の組織に裏切られた科学者が、復讐のためライダーマン(特殊な義手以外は生身の人間)となって登場。V3とは異なる立場で戦いに加わったおかげで、ドラマ性もアップし、番組が再び盛り上がっただけに、31話からの“中だるみ”は残念なことだった。
作り手が面白いと思ったアイデアが、視聴者に受けるとは限らない。番組の人気を維持するというのは難しいものだ。『仮面ライダーV3』を思い出すとき、大人になった僕はそんなことを考えずにはいられない。
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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る