これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第8回 “SUITS”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第8回“SUITS”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社にその道の才人たちが集結し、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“SUITS”とは?
通常“suit”は訴訟・スーツの意味だが、複数形の”suits”にはエリートという意味もある。つまりこのタイトルは’裁判沙汰’と’ビジネスエリート’をかけて、’トップランクの弁護士’を表している。
“SUITS”の面白さは3つの“s-word” = “smart”, “stylish”, “slick”(如才ない)で表現できる。米国の訴訟社会、そこは銃や暴力の代わりにマシンガントークによる頭脳戦が繰り広げられるバトルフィールドだ。
“Harvey meets Mike”
マンハッタンには世界最高の法律事務所が集結している。中でもピアソン・ハードマン事務所はハーバード出身のエリートだけを受け入れる、企業訴訟を得意とする名門。そして同事務所のエース弁護士が、冷酷非情で並みはずれた才能を持つハーヴィー・スペクター(ガブリエル・マクト)だ。
もう一人の主人公マイク・ロス(パトリック・J・アダムス)は大学をドロップアウトしたニート。根は優しいが、金も恋人も人生の目標もない。ある日マイクは親友の手引きでマリファナの運び屋を引き受けるのだが、それはおとり捜査だった。
現場のホテル内で捜査官に追いつめられたマイクが飛び込んだのは、ピアソン・ハードマンの面接会場。他人を装って受けたインタビューで、マイクはハーヴィーを仰天させる。実はマイクは写実的記憶力の持ち主で、LSAT(米国法科大学院の資格試験)の替え玉受験で生活費を稼いでいたのだ!(この場面は鳥肌が立つ面白さで、ここで完全にハマる。)
ハーヴィーは無資格のマイクを採用し、違法を承知で自分のアソシエート(弁護士資格を持つアシスタント)にすえる。
究極のリーガルウェポン!
ハーヴィーはマンハッタンのコンドミニアムに住み、週末ごとに違う女性と過ごす。贅沢なオフィスを与えられ、数千ドルのスーツに身を包み、移動は運転手つきのリムジンだ。エゴの化身のような男だが、マイクには弟に対するような思いやりを見せる。
マイクはハーヴィーという最高の師を得て、またたく間に弁護士としての才能を開花させる。収入も激増して、同僚のレイチェルとのロマンスも急展開する。人生は素晴らしい。
ピアソン・ハードマンに持ち込まれるのは、わがままな大手企業が抱える超難問ばかり。ひとつしくじると数百万ドル規模の顧客を失うことになる。
ハーヴィーは’陪審員・裁判官による評決’というリスクを避けるために、ほとんどの事件を示談で処理する(だから法廷シーンは驚くほど少ない)。敵の弱み・論理の隙につけ込み、法律の盲点を探りながらあらゆる拡大解釈を図り、コネを総動員し、ブラフも最大限に使う。そこに情が入り込む余地はない。だが相手方の弁護士やDA(地方検事)も超一流なので勝負は二転三転する。
頭脳・胆力・幸運がこの世界で要求される資質だが、もうひとつ戦況を左右する決定的な要素がある。それは’情報収集能力’だ。ハーヴィーにとって、その切り札がマイクの写実的記憶力なのだ。こうしてこのイケメンコンビは、リーガルウェポンと化して敵を叩きつぶす!
ハーヴィーとマイクの無敵の強さ、コントラストをなす二人のキャラクターが本作最大の魅力だ。だが蜜月は永遠には続かない。やがて絆は破綻し、マイクの秘密も漏れ始める。この二人が対立すると一体どうなる? あとは見てのお楽しみだ。
芸達者な脇役たち
長丁場のテレビドラマは魅力ある脇役陣なしでは成り立たない。ハーヴィーの恩師でネームパートナー(事務所名に名前の入った最高位の役員)のジェシカ・ピアソン(“Firefly”のジーナ・トーレス)。ハーヴィーが唯一頭の上がらないスーパー・セクレタリーのドナ(サラ・ラファティ最高!)。マイクが一目ぼれするパラリーガル(弁護士資格のない補助員)のレイチェル(メーガン・マークル)。そして金融・税金の専門家でハーヴィーの成功に嫉妬するルイス(リック・ホフマン)が、オッドボール(狂言回し)として大活躍する。
クリエーターでもあるアーロン・コーシュの脚本には映画の名セリフが頻出する。たいてい無意味で会話から浮いているのだが、そこがまた確信犯的で嬉しい。さらに契約・会社法・企業買収・金融・インサイダー取引などの’高度で退屈なビジネス英語’がお茶の間で楽しく学べる。
製作はシンジケート系(非民放系)の中でもマイナーなUSA Network。本国ではシーズン5が、日本ではWOWOWでシーズン4が、それぞれ今月(6月)から放映開始だ。
“SUITS”の面白さを表す“s-word”はまだまだありそうだ。英語脳のトレーニングを兼ねて挙げてみよう。“smooth”、“sly”(悪賢い)、“sophisticated”、“sensational”、“sexy”、“stunning”(驚くべき)、“sneaky”(卑劣な)、“seductive”(魅了する)、“striking”(ハッとする)、“sharp”・・・。
今回はとてもためになるなあ。
<今月のおまけ>「心に残るテレビドラマのテーマ」⑦ ”L.A. Law” (1986-1994)
(80年代を代表するリーガルドラマ、聞くたびに正義感が沸き起こる名曲)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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