これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第9回 “Orphan Black”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第9回“Orphan Black”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社にその道の才人たちが集結し、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
アメリカン・ドラマのダークホース!
今回は極めつきのサプライズ、“Orphan Black”を紹介しよう。これはBBC America(英国BBCのローカル局)とカナダの会社との合作なので一応アメリカン・ドラマだ。金をかける代わりに手間をかけたSci-Fiアクション・スリラーで、病みつきになること請け合い。海外ドラマファンの皆さん、もしチェックから漏れていたら今すぐフォローしましょう。
何層にも練り込まれた仰天のストーリー!!
主人公のサラ・マニング(タチアナ・マズラニー)は、孤児で、シングルマザーで、詐欺と盗みで生き延びているタフな女性だ。ある日サラはニューヨークに近い駅のプラットフォームで自分と瓜二つの女性を見かける。その女性はサラの目の前で飛び込み自殺をして即死する。サラはとっさにその場に残された彼女のハンドバッグを引っつかむと、運転免許証をチェックして彼女のアパートへ向かう。
自殺した女性ベス(再びタチアナ・マズラニー)は裕福な生活をしていた。サラは写真やビデオを見て彼女の化粧とアクセントをまねて、ベスになりすます。そのままアパートに住み、彼女の服を着て、彼女の高級車に乗り、彼女のボーイフレンドと寝る。やがてベスが停職中の刑事であることが分かると、サラはあわててベスの銀行預金をすべて引き出す。このお金があれば娘のキーラを引き取って、二人でどこか知らないところで静かに暮らすことが出来る…。
…はずだった。ここからストーリーは急展開する。サラの目の前に、2人目、3人目、4人目、5人目の、一卵性双生児のように自分とそっくりで、国籍の違う女性が次々に出現するのだ!
サラはその中の二人、科学者のコシマ(当然タチアナ・マズラニー)、主婦のアリソン(またもやタチアナ・マズラニー)と協力して自分たちの出生の秘密を調べ始める。だがことの真相は何者かによって注意深く封印されていて、謎は謎を呼ぶばかり。ストーリーはツイストの連続からさらに加速してスピンし始め、シーズン1の第3話あたりで早くも予測不可能・制御不能となる。このスピード感、高揚感は快感だ。
前代未聞の一人11役!!!
タチアナ・マズラニーはシーズン2の時点で、何とルックスも性格も違うそっくりさん11人を演じた!彼女は取りたてて美人ではないが、そのうちの何人かはとても魅力的だ。
キモとなるサラたちの合成シーンには手間がかかっている。まずマズラニーと彼女のボディダブル(代役)がひとつの場面を演じる。その後二人が役柄を入れ替わって同じシーンを再度撮影してから、合成するのだという。つまり3人が集まるシーンでは都合3回撮ることになる。その出来栄えは完璧で、まったく違和感がない。
サラ、コシマ、アリソンはレギュラー出演なのだが、マズラニーの演技によりまるで別の俳優が演じているような錯覚に陥る。しかもサラがコシマやアリソンのふりをする場面さえある。こうなるともう神業で、昨年のゴールデングローブ賞ノミネートも当然だった(winnerは“House of Cards”のロビン・ライト)。われわれは、無名だが才能ある女優が開花する瞬間を目の当たりにするのだ!
カナダ人中心の脇役陣も新鮮だ(マズラニーもカナダ人)。中でもサラのフォスターブラザー(血のつながりはない養子の姉弟)でゲイのフェリックスを演じるジョーダン・カヴァリスが秀逸。サラとフェリックスの養母でとんでもない過去を持つのがミセス・S(アイルランド人のマリア・ドイル・ケネディ)。実はただのイケメンマッチョではないベスの恋人ポール(ディラン・ブルース)。物語の鍵となるサラの愛娘キーラ(スカイラー・ウェクスラー)。誰もが見かけどおりの人間ではない。
97%のドラマファンが「いいね!」
日本では「オーファン・ブラック 暴走遺伝子」の邦題で2月にシーズン2のDVD・ブルーレイ版が販売され、本国では4月からシーズン3がスタートした。特にシーズン2は高評価で、お薦めの映画レビューサイト“Rotten Tomatoes”(http://www.rottentomatoes.com/)で97%の肯定率をマークした。
「“Orphan Black”とは一体何を意味するのか?」、「タチアナ・マズラニーはあと何役そっくりさんを演じるのか?」、興味はつきない。 エンターテインメントの王道を行く、この’オーファン・ブラックユーモア’のきいたジェットコースター・ライドに乗らない手はないぞ。
…それにしても女性は怖いね、化けるし。
<今月のおまけ>「心に残るテレビドラマのテーマ」⑧ “M*A*S*H” (1972-1983)
(タイトルは“Suicide is Painless”。オリジナルの映画版は歌詞付きだった)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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