JVTA修了生が取り組む 舞台公演のバリアフリー化とは
JVTAのバリアフリー講座修了生が所属する「ものがたりグループ☆ポランの会」では、2014年から舞台での公演に音声ガイドをつける試みを始め、人気を集めています。音声ガイドとは、目の不自由な人たちも映画やドラマを楽しめるよう、視覚情報を言葉にして音声で解説するもの。観客はFMラジオを通してそのガイドを聴くことができます。7月25日と26日に開催される「宮澤賢治の童話」では、オムニバス形式で宮澤賢治の『よだかの星』や『注文の多い料理店』など短編を7本上演、その公演前や幕間に音声で解説をつけて上演しますが、1カ月前の段階でチケットがSOLD OUTになったそうです。そこで今回は、修了生で出演者の彩木香里(同会代表)さんと原ミユキさんに、ポランの会が目指すバリアフリーの形についてお話を聞いてみました。
●ポランの会で音声ガイドや音声解説をつけ始めたきっかけを教えてください。
彩木さん:ポランの会の公演は宮澤賢治の作品にフォーカスしており、今回は基本的に1人が原作を全て語りながらセリフも話す、いわゆる1人芝居のような形式です。さらに今回は、三味線や尺八、篠笛など和の楽器の生演奏と共にお送りしますので、音だけを聞いているとシンプルな舞台の上に椅子が置かれ、そこに演者が座って本を読み上げていると想像してしまうと思います。しかし、実際には舞台上にはセットがあり、衣装をまとった演者が動き回りながら語っています。目の不自由な方にもこの面白さを存分に伝えたいという想いから昨年初めて、舞台の本編に生で音声ガイドをつけることに挑戦しました。この時は開演前に視覚に障害のある方に舞台装置や衣装に触ってもらうツアーも行ったのですが、これが予想以上に好評で「より芝居を深く楽しめた」ととても喜んでいただけました。
原さん:今回は本編ではなく、公演前や各お話の幕間にFMラジオを通して次の物語の内容や衣装、舞台上の様子、演者の動きなどを言葉で解説します。前回は本編のガイドをすべて私が生で読み上げましたが、今回は出演する役者本人が自ら解説のための原稿を作り、舞台用の声ではなく、素の声で読み上げたものを録音しています。視覚障害者の方だけでなく、役者のファンの方も“舞台プラスアルファの特典”として楽しみにしてくれています。
●短い時間にさまざまな情報を盛り込んで解説するのは難しそうですね。
彩木さん:30秒から1分間という限られた時の中で、何をどのように伝えたらより楽しんでもらえるのか、試行錯誤しています。より分かりやすい解説にブラッシュアップするため、本番を前に視覚障害者の皆さんと意見交換会をしたのですが、新たな発見がいろいろありました。
原さん:例えば私のセリフに「くうきじゅう」という言葉がありますが、皆さんはどんな絵を想像しますか? 意見交換会では、ほとんどの人が「空気銃」だと思ってしまったのですが、正解は「空気獣」。それを事前にガイドで解説しておけば勘違いを防ぐことができます。「空気獣」は舞台上にもいませんので、実は見えている人も見えていない人も同じように誤解してしまう表現、つまり今回の音声解説は、すべての人がより深く舞台を楽しむためのツールなんです。
●確かに同音異議語の解説は全ての人に有効ですよね。視覚障害者からは他にどんな意見がありますか?
原さん:意外だったのは、声の方向から演者の背の高さや姿勢なども感じてくれていたことです。ある演者は、落語のように舞台の上に座布団を敷いて正座しながら語るのですが、目の不自由な方から「ずいぶん背の低い人だと思った」と言われてハッとしたことがありました。舞台上の位置や動きを解説しないと、全く違う“絵”をイメージしてしまうのだと実感した瞬間でしたね。他にも「もっとゆっくり話してほしい」「衣装について知りたい」「舞台の大きさや奥行きを知りたい」「解説を聞いて色を感じることができた」といった意見をいただいています。
●ポランの会の今後の取り組みについて教えてください。
彩木さん:音声ガイドや音声解説を舞台に取り入れ、観客の皆さんからさまざま意見を聞いたことで表現者としての意識が変わりました。この舞台で本当に伝えたいことは何か? それを伝えるためにどう演じれば良いのかを改めて考えるようになりました。このガイドは目の不自由な人のためだけでなく、より舞台を楽しんでもらうために全ての観客の皆さんに向けて発信する“ユニバーサルデザイン”の1つにしたいと考えています。今後、私たちと同じ気持ちを持つJVTAバリアフリー講座の修了生の皆さんにも会場でのご案内などを手伝っていただけたら嬉しいですね。
原さん:JVTAのバリアフリー講座にも視覚に障害のある方に意見を聞くモニター検討会があります。その時の言葉で私が強く印象に残っているのは、「どんな作品に音声ガイドをつけてほしいか」という問いに「全部」と答えたこと。今はまだ、音声ガイドやバリアフリー字幕は、“特別についている”という存在ですが、今後は映画やドラマ、舞台といったエンタメには当たり前に付いていて、見える人も見えない人も誰もが楽しめるツールになるべきだと考えています。
ポランの会では10月に、音声ガイド付きの舞台公演『銀河鉄道の夜』を行う予定。こちらもぜひ、チェックしてみてください!
ものがたりグループ☆ポランの会 公式サイト
http://www.polan1010.com/
※7月25日、26日の公演はSOLDOUTです。
★2014年の音声ガイド付き舞台公演のレポートはこちらをチェック!
※宮澤賢治とヘヴィ・メタルが融合 音声ガイド付きで上演
https://www.jvta.net/?p=4206
※音声ガイド付き舞台が大盛況 視覚障害者からも称賛の声
https://www.jvta.net/?p=4412
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講座の詳細はこちら
http://www.jvtacademy.com/chair/lesson3.php