これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第11回 “ The Blacklist”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第11回“The Blacklist”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
“Tell him it’s Raymond Reddington”
まず、この作品の導入部は他に類をみない屈指の面白さだ!
ある日のワシントン。粋で恰幅のいい初老の紳士(ジェームズ・スペイダー)が、FBI本部のあるフーバービルに入っていく。その紳士は受付でレイモンド・レディントンと名乗り、テロ対策副部長に会いたいと告げる。そしてゆっくりとひざまずき、両手を頭の後ろに回す。
その途端に館内にサイレンが鳴り響き、FBI本部は蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。
世紀の犯罪王とFBI新米女性捜査官の異色ペア!
FBIが騒ぐのも無理はない。レイモンド・レディントンは20年以上FBIの指名手配リストのトップテンに名を連ねる世界的な犯罪王なのだ! レディントンは自分が犯した罪に対する免責と引き換えに、アンダーワールドのコネを使って存在さえ知られていない凶悪犯やテロリストの逮捕に協力すると申し出る。ただし、担当捜査官としてエリザベス(リズ)・キーン(メーガン・ブーン)を指名する。
FBIのお偉方は顔を見合わせる。「あいつはなぜ自首してきた? それにリズ・キーンっていったい誰だ?」
リズ・キーンはまさにその日、FBIのプロファイラーからテロ対策部へ異動してきたばかりの若手捜査官。レディントンに会ったこともないし、なぜ自分が指名されたのか見当もつかない。
数日後、レディントンの予告通りある将軍の娘が誘拐されると、FBIはしぶしぶレディントンのオファーを受け入れる。こうして世紀の犯罪王と若手女性捜査官によるペアが誕生する。
圧巻のジェームズ・スペイダー、魅惑の悪党たち!
ストーリーはリズの出生の秘密とレディントンとの関係を縦糸に、ふたりと凶悪犯・テロリストたちとの対決を横糸に、世界を舞台に縦横無尽に展開する。
レディントンを演じるジェームズ・スペイダーは、若いころはスケベでぬるい青年役が得意で『セックスと嘘とビデオテープ』、『セクレタリー』、『ぼくの美しい人だから』などで人気を博した。元々演技力は抜きん出ていて、40代になって“The Practice”、“Boston Legal” の両作品における辣腕弁護士アラン・ショア役で劇的な成功をおさめた(3度のエミー賞主演男優賞を受賞、特に“Boston Legal”は必見)。
今回もまさに適役だ。天才的頭脳を持ちながら倫理観が欠落していて、一風変わったユーモアのセンスの持ち主で、そのくせリズに対しては深い愛情を捧げる犯罪王レイモンド・レディントンを、スペイダーは実にチャーミングに演じている。
リズ役のメーガン・ブーンは本作で大ブレーク。スペイダーの相方にはちと荷が重いかと思っていたが、リズがエピソードを重ねるごとにタフに、ずる賢く、そして魅力的になっていくプロセスは、ブーンの俳優としての急速な成長とオーバーラップしている。そのおかげでシリーズ全体がスペイダーのワンマンショーとなることなく、ふたりの間にケミストリーが生まれた。リズとレディントンとの微妙な関係は、クラリスとハニバル・レクターを思い起こさせる。
そしてもうひとつのお楽しみが毎回登場する世紀の悪党たちだ。各エピソードのタイトルは彼らの名前かニックネームになっていて、“The Freelancer”、“The Stewmaker”(シチュー屋)、“The Courier”、“The Good Samaritan Killer”、“The Alchemist”(錬金術師)、“Lord Baltimore”などの異名を持つ、個性豊かで頭のネジが外れた連中に魅了される。毎回活写されるリズとレディントンによるマンハントは時として立場が逆転し、ふたりが追われる身になることも。
最近のアクション/クライム・ドラマは“NCIS”シリーズ、“Criminal Minds”、“Person of Interest”のように「Action+Intel(最新の諜報技術)」というパターンが多い。本作はこれに’魅力的な悪党が主人公’というボーナスがつく。この効果は絶大で、“The Blacklist”はエンターテインメントの王道を行く “action-packed thrill ride”となった!
このシリーズのアイディアは2011年に逮捕されたボストン・マフィアのボス、ホワイティ・バルジャーから生まれたという(バルジャーは当時、オサマ・ビン・ラディンに次ぐFBIの指名手配リストの2番目だった)。
製作は大手民放のNBCで、本作のパイロット版は同社の過去10年に渡るドラマ史上最高の評価を受けた。また今年の“Post Super Bowl Program”(スーパーボール終了後に始まるその放送局の目玉番組)にも選ばれている。日本では「スーパードラマ・TV」でシーズン2までが放送済みで、本国ではこの10月からシーズン3が始まる。
まだシーズン2が終わったばかり。ジェームズ・スペイダーのオーラをまとった演技を堪能しながら、早めにキャッチアップしておこう。
<今月のおまけ> 「心に残るテレビドラマのテーマ」⑩ “Magnum P.I.” (1980-1988)
(このころのトム・セレックは飛ぶ鳥を落とす勢いだった))
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
◆バックナンバーはこちら
https://www.jvta.net/blog/5724/