バリアフリー字幕の現状と今後を知る 聴覚障害者が本当に求める字幕とは?
皆さんは、バリアフリー字幕を見たことがありますか? バリアフリー字幕とは、高齢者や聴覚に障害のある人のために、セリフや音など耳から得る情報を字幕にして補足するものです。JVTAでは『ドラゴンボール 最強への道』『宮本武蔵 般若坂の決斗』『緋牡丹博徒』などさまざまなDVDに付けるバリアフリー字幕制作のサポートをしており、多くの修了生が活躍しています。先日、当校で当事者の意見を聞くモニター検討会が行われ、当校のバリアフリー講座を共催しているNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)の蒔苗みほ子さん(写真左)と聴覚障害者の西山萌(めぐみ)(写真右)さんが来校。バリアフリー字幕の現状や当事者が求める字幕についてお話を伺いました。
◆MASCのWEBサイト上ではDVD用字幕配信サービスがあり、JVTAの修了生も字幕作りでサポートしています。このサービスにはどんな作品があるのでしょうか?
蒔苗さん:MASCでは現在297ディスクの字幕をアーカイブしています。最も多いのが邦画で150本、次いでアニメで86本ですが、アニメ作品全体の数の多さを考えると分母が大きい分、字幕付きで見られるアニメの数はまだとても少ないですね。アニメの場合、「作品の完成から上映や放送までの期間が短いため、字幕作りが追い付かない」と聞いています。洋画は通常セリフだけですが日本語字幕が付いているので、バリアフリー字幕はまだあまり普及していません。ですから聴覚障害者は昔から邦画よりも洋画を見てきた人が多いですね。
◆西山さんも映画は洋画を見ることが多いですか?
西山さん:そうですね。長らく邦画はあきらめて洋画を日本語字幕付きで見ていました。セリフの字幕があるだけでもずっと理解が深まりますから。でもテレビ放送には字幕が付いていなかったので、ドラマやアニメは映像だけを見ていました。小さいころは、『美少女戦士セーラームーン』が大好きでしたが、決めゼリフなどが分からず、友達が真似しているのを見ながら覚えましたね。
蒔苗さん:昔の作品には全く字幕がついていなかったので、当時の人気ドラマやアニメに字幕を付けてほしいという要望はとても多いですね。字幕付きで見たかったのに見られなかったという思いが強い分、新しい作品以上に当事者の満足度がとても高いのです。先日も『スケバン刑事』の字幕を制作したのですが、「30年越しにやっと字幕付きで見られて嬉しかった。当時自分が思っていたのとずいぶん違う内容で驚いた!」という声を頂きました(笑)。
◆『ラスト サムライ』や『父親たちの星条旗』、『硫黄島からの手紙』など英語と日本語が混在している作品への要望も高いそうですね。
蒔苗さん:英語と日本語が混在している作品では、通常、外国人キャストの英語のセリフには日本語字幕があるのに、日本人キャストのセリフには字幕がありませんよね。つまり、聴覚障害者の方には、ここが空白になってしまうんです。アカデミー賞候補にもなった『バベル』が日本で公開された当時、これが問題視されて署名運動が起こったのをご存じですか? この作品は女優の菊地凛子さんがろう者役を演じて手話のシーンも多く、聴覚障害者の関心が高かったのですが、当初は日本語音声に字幕がなかったのです。そこでろう者の有志がサイトを立ち上げて広く呼びかけた結果、最終的に42,389人の署名を得て、日本語音声の箇所に日本語字幕が付けられることになりました。このムーブメントは私たちMASCの活動においても大きな後押しになりましたね。これだけ多くの人が映像のバリアフリー化を求めているのだと改めて実感しました。
※『バベル』に字幕を求める署名のサイトはこちら
http://www.kiirogumi.net/babel/pc.html
◆洋画にバリアフリー字幕を付ける場合、翻訳の日本語字幕に話者名や音情報を加えるのですか?
西山さん:確かに、そういう作品もありますね。場合によっては、吹き替え用の台本を字幕化してもらうほうが分かりやすいこともあります。オリジナル音声と吹き替えとでは、セリフが大幅に違ったりしますよね。オリジナル台本を吹き替えにする過程で、セリフが洗練されていくので、吹き替え用の台本をバリアフリー字幕にした方が、分かりやすいこともあるんです。
蒔苗さん:最近では渡辺謙さんが出演したハリウッド版『GODZILLAゴジラ』のDVDにも吹き替え用の台本を基にしたバリアフリー字幕が収録され、とても分かりやすいと好評でした。また、聴覚障害者からは「子どもと一緒に映画館で吹き替え版を観たいが、字幕が付いていないので自分は一緒に楽しめない」という声をよく聞きます。吹き替え版にバリアフリー字幕を付けて上映するという試みもニーズがありそうですね。
◆確かに映像翻訳では、字幕より吹き替えのほうがより多くの情報を盛り込めます。それが理解の助けになるんですね。テレビ放送の字幕には何か要望がありますか?
西山さん:以前は字幕があるかどうかをいつも確認していましたが、今は特に意識しなくても、多くの番組を字幕付きで楽しめるようになりました。でも時間帯によってはまだ少ないですね。個人的には歌番組なら歌の前のトークの部分に字幕があったら嬉しいです。また、お笑い番組のコントやお笑い芸人のDVDにも字幕を付けてほしいという声も聞きますね。動きで笑えるものはいいのですが、言葉で笑わせるものは理解できないので。
蒔苗さん:人気アイドルが出ているドラマやバラエティ番組、映画、ライブDVDなどへの要望も高いですね。嵐の国立競技場でのライブDVDに字幕が付いた時の反響は大きかったです。字幕のおかげで歌の合間のMCが理解できて、より楽しめたとか。アイドルはファンの数も多い分、バリアフリー字幕のニーズも高いと思いますね。ちなみに、舞台作品への要望も多く、MASCでも3作品を配信しています。
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Written by浅野一郎(JVTAバリアフリー事業部 チーフ・ディレクター)
https://www.jvta.net/?p=4802
◆今後もっと字幕を付けてほしい映像作品はありますか?
西山さん:例えば、教材用DVDですね。大学の授業では映像と音情報をワードで書き起こしたデータを別々にもらうことがあるのですが、映像と文字データを一緒に見るタイミングが難しいんです。授業でテレビ番組の録画を使う場合は、字幕付きで録画されたものだとより分かりやすいと思います。
蒔苗さん:MASCが手がけた字幕も、これからもっと活用してほしいですね。MASCは、さまざまな作品のバリアフリー字幕のアーカイブをつくり、保管しています。映画会社や制作会社がバリアフリー上映や、テレビ、配信などほかのメディアで字幕を活用したい時にいつでも字幕データを用意できるよう、サポートするためです。アーカイブをきちんと管理しないと、実はもう字幕があるのにまた作り直すことになってしまいます。それならばもっと違う作品に字幕を付けて見られる作品の数を増やすべきだと考えています。
◆西山さんは難聴と伺いましたが、どのように聴こえているのでしょうか?
西山さん:私は感音性難聴で、右耳が全く聞こえず、左耳に補聴器をつけて音を聞いています。ですので、こうして音声言語でやりとりをしています。感音性難聴は、音が聞こえていても音そのものがゆがんで聞こえてしまうため、ボリュームを大きくすればよい、というものではありません。私たちにとって字幕は必須ですね。
蒔苗さん:聴こえ方は人によってさまざまで、その感覚は本人にしか分からず、誰とも共有できません。当事者が本当に求める字幕作りの難しさは、ここにあるんです。ですから、私たちはまず制作者がバリアフリー字幕もコンテンツの1つと認識し、著作物として積極的に携わってほしいと考えています。どの情報が必須で何を省略するのかは、やはり制作者目線で判断するのが一番ですよね。ただ、専門的な知識がないと一方的になってしまうので、その上でバリアフリー字幕作りの経験者や当事者の意見を取り入れて一緒につくるのがベストなのではないでしょうか。まずはバリアフリー字幕に関する現状や当事者の想いを多くの方に知っていただくことと、字幕を制作する人たちの育成に力を入れていきたいですね。
NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)公式サイト
http://npo-masc.org/
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