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第69回 『ジュラシック・ワールド』を見て思い出すこと

第69回 『ジュラシック・ワールド』を見て思い出すこと

【最近の私】ラグビーを見ていると他の球技にはない感動がある。体を張り、お互いに密着して、サポートし合うスポーツだからだろう。日本代表のように、献身的なプレーを続けるチームには、特にそれを強く感じる。
 

『ジュラシック・パーク』(1993年)の続編、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)には、日本の怪獣映画へのオマージュ(パロディ?)となっているシーンがある。それは、ロサンゼルスの住宅街に肉食恐竜Tレックスが現われ、日本人と思しきビジネスマンたちが叫びながら逃げてくる場面だ。昭和の怪獣映画では、怪獣が現れ、村や町の人々がパニック状態で避難するのが“お決まり”だった。
 

この夏に公開された『ジュラシック・ワールド』にも、特撮ファンならきっと「どこかで見たなあ」と思うようなシーンがある。製作者サイドにオマージュというつもりは全くないだろうが、僕はついつい怪獣映画などと比較してみたくなる。
 

まず『ジュラシック・ワールド』の“主役恐竜”、インドミナス・レックス(以下インドミナス)が体色を変えて保護色になるという設定。この恐竜は遺伝子操作で作られたハイブリッドモンスターで、中にはイカの遺伝子も組み込まれている。ご存じのように、イカは一瞬で体色を変えられる生物だ。インドミナスは厳重に管理された飼育施設から逃げ出した後、深い森の風景に溶け込み、知らずに近寄ってきた人間に襲い掛かかる。
 

『帰ってきたウルトラマン』第7話にも、保護色の体を持つ怪獣、ゴルバゴスが登場した。“怪獣退治”専門の特殊チーム、MATは、なかなか姿を見せないゴルバゴスに手を焼き、空から虹色の塗料を散布するというユニークな作戦を決行。七色に染まったゴルバゴスは、もう隠れることができなくなった。子供心に、「なるほど、考えたなあ」と思ったものだ。一方、インドミナスの場合、保護色であることがストーリーの展開に重要な意味を全く持っていない。これでは単に生物的能力をひけらかしたに過ぎず、ストーリーの進行上、蛇足だと感じてしまうのだが、どうだろうか。
 

インドミナスは他に、別種の恐竜とコミュニケーションを取る能力もある。人間の手先となって追ってきた小型肉食恐竜ヴェロキラプトルに“話しかけ、”逆に仲間に引き入れるのだ。少し安っぽいヴェロキラプトルの演技には、「オイオイ、それはないだろ」と突っ込みたくなったが、そんな僕も子供の頃は怪獣同士の“会話”を面白がったりしたものだ。それは『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)での、富士山をバックにした雄大な景色の中での一場面。モスラ(幼虫)が「宇宙怪獣キングギドラに、地球で好き勝手させてはいけない」と、ケンカをしているゴジラとラドンを必死に説得。その結果、三大怪獣は力を合わせ、見事キングギドラを追い返す。この場面で特に面白かったのは、ゴジラとラドンがお互いに「なんでこんな奴と協力しないといけないんだよ」と渋ったり、そのやりとりをザ・ピーナッツ演じる小美人が日本語に通訳してくれたりするところだ。僕が子供だったからというのもあるが、当時はこんなふざけたようなシーンが受け入れられる時代だったのだ。
 

『ジュラシック・ワールド』のクライマックスでは、インドミナスとTレックス(恐竜界の大悪役スター)がガチンコ勝負を展開する。これはもう完全に昭和の怪獣映画だ。我らがゴジラシリーズもガメラシリーズも、最初は単体の怪獣の話だったのだが、そのうち怪獣同士のバトルが映画の最大の売りになった。まさかジュラシック・パークシリーズも、その路線に進むことになるとは!
 

ただし怪獣映画で育った僕から見て不満が残るのは、インドミナスも Tレックスも二足歩行の肉食恐竜で、姿だけでなく戦い方もそっくりで面白みがないという点だ。例えば、ゴジラのライバルたちを思い出してほしい。『ゴジラの逆襲』(1955年)で戦ったアンギラスは四足歩行、『キングコング対ゴジラ』(1962年)のキングコングは類人猿、『モスラ対ゴジラ』(1964年)のモスラは昆虫だ。どれも個性豊かでゴジラとの対比が面白かった。
 

もちろん、これまでのシリーズ三作で常に人間を襲う立場だったTレックスが、『ジュラシック・ワールド』では結果的にせよ、人間を助ける側に立ったことは、ある意味感動的でテンションも高まる。しかし、僕の好みとしては、インドミナスを倒すのは、四足歩行のトリケラトプスにしてほしかった。普段はおとなしい草食恐竜であり、三本の角を持っているという点が、インドミナスとは対照的だからだ。Tレックス相手の戦いに比べると、まるで異種格闘技戦のような面白さが出せるだろう。
 

さらに、「トリケラトプスはおとなしい」という特徴を生かし、設定・ストーリー展開にも一工夫こらせる。例えば「飼育係の主人公によく懐いていたトリケラトプスが、クライマックスで彼を助けるためインドミナスを倒すが、自分も傷ついて力尽きてしまう」というラストにすればどうだろう? こんなふうに思うのも、僕の心の中に『ウルトラQ』第1話の悲しい場面が刻みこまれているせいかもしれない。そのエピソードでは、大怪獣ゴメス(着ぐるみはゴジラを改造)を、その半分ほどの大きさしかない怪鳥リトラが、刺し違えるような形で倒す。倒れたゴメスの上に折り重なり、力なく羽ばたこうとするリトラ。その姿が、僕は今でも忘れられない。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る