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第70回 『日本の特撮は「進撃」できるか』

第70回 『日本の特撮は「進撃」できるか』

【最近の私】僕はニュージーランドの国歌を、マオリ語と英語で歌える。オールブラックスの試合中継を見ているうちに自然と覚えたのだ。体調を崩した時、それを歌っていたらあっという間に回復した。嘘のようだが、本当の話だ。オールブラックス、W杯連覇おめでとう!
 

8月に公開された『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の続編、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』が9月に公開された。前編と同じく、特撮ファンの間では有名な樋口真嗣監督の作品だが、Yahoo! のユーザーレビューでは大変不評だ。5点満点での評価は、前編と変わらず平均2点台前半。前編に失望させられた観客の多くは劇場に足を運ばなかっただろうから、後編を観たのは好意的な観客だったはずだ。それを考えると、前編以上に低い評価だと言えるかもしれない。
 

前編・後編を通し作品に流れるテーマは、「閉塞感を抱えた若者が、いかに自由を手にするか」というものだ。人喰い巨人の存在を信じていなかった主人公のエレンは、壁の中に閉じ込められた暮らしに憤りを感じ、外の世界を知りたいという強い思いを持っていた。そして後編のラストで敵を倒した後、壁の上に立ち、その外側に広がる海を初めて目にする。
 

いかにも晴れ晴れとした気分が味わえそうなラストシーンのようだが、残念ながら実際はそうならなかった。それはネットでよく言われているように、さらなる続編を匂わせるより伝わってこなかったからだ。彼の憤りを理解するには、社会がいかに理不尽にあふれていたかを知らなければいけない。ところが前編の冒頭で、人々は平穏な暮らしを送っている。確かに、情報統制があることを示唆するエピソードも出てくるが、エレン自身はそのことで不利益をこうむっているわけではない。だから僕には、不平不満を口にしてイラつく彼がただの文句が多い若者にしか見えなかった。
 

また、肝心の人喰い巨人たちがほとんど出てこなくなってしまったことや、真の問題は解決されずに前編で壊された壁を修復するだけで物語が終わったことなども、僕にとっては不満が残る部分だ。これはやはり脚本の問題なのだろうと思っていたら、雑誌『映画秘宝』11月号に、「映画『進撃の巨人』にトドメ!の鉄槌を下す」として、(渡辺雄介氏と)共同で同作の脚本を書いた町山智浩氏と、映画評論家の柳下毅一郎氏による対談が掲載されていた。町山氏がどんなことを言うのかと期待して読んでみたが、批判に対する言い訳を口にするばかり。そもそも『映画秘宝』は、彼が創刊した雑誌だ。いわば自分の庭である。そして柳下氏とは共著も出しており、二人の言葉遣いを見ても親しい間柄であることが分かる。これでは、「鉄槌」と呼んでいいものか疑わしい。
 

ただし、彼の言い訳には見過ごせない部分もあった。というのも、「シナリオでは違っていた」という趣旨の発言がいくつも出てきたからだ。例えば前編に、巨人が周囲にいるかもしれないという状況下でのラブシーンという、とんでもなく観客の不評を買った場面があったが、脚本には「抱き合っている」としか書かなかったと町山氏は言う。また同じく前編になるが、大きな声でしゃべると巨人に見つかって危険だという状況で、エレンが感情的にわめくシーンがある。これも脚本上では、エレンが壁に向かってうめくだけだったというのだ。
 

町山氏は、映画が不評だった責任は樋口真嗣監督にあると言いたいのだろうか。それはともかく、もし彼の発言が全て事実なら、2016年夏に公開予定の東宝映画『シン・ゴジラ』へ向けて、大きな懸念材料となる。なぜなら、『シン・ゴジラ』のメガホンを取るのは樋口監督だからだ。期待が不安に変わった、というファンも多いのではないだろうか。誤解を避けるために言っておくが、問題は脚本家の意図と異なるシーンにしてしまったことではない。町山氏も上記の対談で、「現場で監督や俳優たちがアイデアを出し合って変えていくのはいい」し、「共同作業でどうなるかわからないところが映画の面白さ」だと言っている。ただ、その結果があのラブシーンや、状況も考えずにわめく主人公では…。
 

それでも見方を変えれば、まだ『シン・ゴジラ』への期待を捨てる必要はない。今回不評を買った具体的な箇所が、次へ向けての反省材料となればいいのだ。スポーツでも、負けた試合の方が多くを学べる。樋口監督も、同じ轍は踏まないだろう。さらに言えば、エヴァンゲリオンシリーズを成功に導いた庵野秀明氏も、脚本・総監督として制作スタッフに名前を連ねている。出演者の中には、樋口版『進撃の巨人』に出演した長谷川博己と石原さとみの名前もある。またしても出演作が不評とあっては、俳優としての経歴にプラスにならないと、二人の所属プロダクションからいい意味での圧力もかかるだろう。もし下手なものを作れば、ハリウッド版ゴジラの『GODZILLA ゴジラ』(2014年)から年月もさほど経過していないだけに、「やっぱりハリウッドには勝てない」と多くの人に思わせてしまうことになる。庵野・樋口コンビでそんなことになってしまったら、日本の特撮は存亡の危機を迎えてしまうに違いない。『シン・ゴジラ』には、日本の特撮が未来に向かって「進撃」する、新たな出発点となってほしいと切に願う。
 

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Written by 田近裕志(たぢか・ひろし)
子供の頃から「ウルトラセブン」などの特撮もの・ヒーローものをこよなく愛す。スポーツ番組の翻訳ディレクターを務める今も、初期衝動を忘れず、制作者目線で考察を深めている。
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明けの明星が輝く空に
改めて知る特撮もの・ヒーローものの奥深さ。子供番組に隠された、作り手の思いを探る