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キラリ vol.195 
できないくせに冷めない憧れ

キラリ vol.195 <Br>できないくせに冷めない憧れ

映画の仕事を始めるようになって以来、なぜか身体がアルコールを受け付けなくなってしまった。飲むと激しい頭痛に見舞われる。「かわいそう」と同情される事も多いが、飲みたい気持ちがこれっぽっちもない人からすると、全く「かわいそう」でない。むしろ、「私が一緒で安くあがった」と感謝してほしいくらいだ。
 

それはさておき。飲んでいた当時、航空会社に勤めていた私の周りには、ワインソムリエの資格ゲットに励む同僚が少なくなかった。ワインブームの追い風をびゅーびゅー受けていた時代に、私は唎酒師の試験を受けた。なぜなら私は「日本酒が世界一の酒だ!」と信じていたからだ。
 

尾瀬あきらによるマンガ『夏子の酒』(1988〜1991年「モーニング」連載)。私はこのマンガで日本酒に惚れ、日本酒の真髄に触れた。東京で働く主人公の夏子が、亡き兄の志を継ぎ、実家の造り酒屋で幻の酒米から日本一の酒を作る姿と、酒造りの工程が非常に細かく描かれている。この本から、酒蔵の職人に求められる技がいかに繊細かを教えられた。松尾様なる酒の神様の存在も知った。日本特有の気候がもたらしたコウジカビの存在も知った。その後『夏子の酒』は1994年には和久井映見主演でドラマ化された。
 

1997年、NHKの朝ドラに登場したのが、造り酒屋の女当主の半世紀を描いた『甘辛しゃん』だ。若い女子が女人禁制の酒蔵に足を踏み入れて理想の純米吟醸酒づくりに邁進するストーリーは、私の日本酒推しに拍車をかけたのだった。
 

さて、この10月から放送が始まったNHK朝ドラ『マッサン』。
 
ニッカウヰスキーの創業者であり、「日本のウイスキーの父」と呼ばれる竹鶴 政孝と妻リタの人生をモデルにしたドラマである。キターーーー。今度はウイスキー。私が決して足を踏み入れなかった領域。さて、製作のNHK大阪放送局は、ウイスキー作りの真髄とともに、どんな感動をドラマに放り込んでくるのか。興味津々で観た一週目。期待以上の事件が満載だった。
 

その①:スコットランド生まれの主人公エリーを演じるのは、アメリカ人女優、シャーロット・ケイト・フォックス。「朝ドラの歴史の中で始めての外国人ヒロイン」というふれこみは、放送開始前から話題を呼んだ。彼女はこの作品をきっかけに初来日。劇中の「カタコト日本語」はガチだ。もう、エリーが健気でかわいくて、画の裏にある彼女の努力を想像するだけで涙腺が刺激される。彼女の演技力も素晴らしいのだが、キャスティングに対する製作者の覚悟にも拍手。
 

その②:主題歌が中島みゆき。サスペンスものや『特捜最前線』、そして、『プロジェクトX』などから、夜のイメージが強い彼女の唄声を、まさか朝から聞くことになろうとは思わなかった。これもまた事件。
 

その③:なんといっても、主人公のマッサン(玉山鉄二)の母役、泉ピン子が怖すぎる。(さすが“渡鬼”の幸楽で鍛えられただけある。筋金入りの鬼)
 

その④:字幕が斜体。エリーやマッサンが時々英語で会話する時に表示される日本語字幕なのだが、話者が画面に出ているのに斜体である。また、エリーがスコットランドの家族と会話をするシーンでは日本語で吹き替えられている。この演出の意図を想像すると非常に面白い。皆さんは、どう感じるだろう。
 

それはもう、事件がてんこ盛りだった第一週を終え、私はすでにマッサンとエリーから目が離せなくなっている!さぁ。私にウイスキー愛を覚醒させることはできるのか、『マッサン』。(飲めないけど…)
 

 
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Written by 浅川 奈美
MTC映像翻訳ディレクター 映画祭担当プロデューサー
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ vol.195 10月のテーマ:事件
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。同じ目標を見つめる修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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