今週の一本 『The Office』
6月のテーマ:変化
ちょっと前にテレビを新しく買った。しばらくテレビのない生活を送っていたせいか、僕の“エンタメ欲”が溜まりに溜まっていたようで、買ったその日から大量のコンテンツをイッキ見している。
最近のテレビにはネット配信サービスが内蔵されているので、好きな番組を好きな時に好きなだけ視聴できる。さらには、手持ちのスマートフォンと連動して遠隔でも続きが観られる。その中毒性は噂通りというか、噂以上というか、良くも悪くも凄まじい。中でも僕がハマったのは『The Office』(USリメイク版)というコメディーシリーズ。恥を忍んで白状すると、全9シーズン(オンエア期間でいうと約8年分)を数週間でペロリと平らげてしまった…。
『The Office』は、とある製紙会社のオフィスで社員の日常をドキュメントするという、聞いただけだと恐ろしく退屈そうで、コメディーからは程遠い題材と設定だ。にも関わらず、エミー賞やゴールデン・グローブ賞など多くの受賞歴を誇り、人気番組として見事に9シーズンも続いたので、客観的に見ても並大抵の番組ではない。
でも僕が個人的にハマった理由は、単純に「モキュメンタリー」というスタイルが好みだからだ。モキュメンタリーとはmock(真似る)とdocumentaryから成る造語で、フェイクドキュメンタリーなどとも呼ばれる。コメディー番組の王道ともいるシットコムとは雰囲気が全く異なり、『The Office』にはlaugh trackはおろか、BGMやナレーションなど、視聴者を“煽る”ような要素がほとんどない。その上、何の変哲もないオフィス風景だからこそ、登場人物たちのただでさえ強烈なキャラが余計に際立つ。この組み合わせが生み出すドライでシュールな笑いがクセになる。
こんなシンプルな設定からは想像しづらいかもしれないが、目頭が熱くなるような感動シーンもたくさんあるし、登場人物の著しい成長も見所だ。今回、短期間でイッキ見したからこそ、その“変化”がはっきりと見えてきた。でも実はそれ以上に驚いたのは、登場人物たちが“変化しなかった”ところにある。シリーズの最終話を見終わり、しばらく余韻に浸りながら、ふと気になって第1話まで遡り観比べて明らかになったのが、最初から最後まで全くブレることのない登場人物たちの性格や話し方、仕草、つまり一人ひとりのキャラの一貫性だった。さすがに9シーズンも続けばキャラがブレてもおかしくないはずだが、番組に一貫性があるからこそ視聴者を飽きさせることなく力強い存在になり得たのだと思う。
ひとつだけ、観ていくうちにどうしても気になったのが、「そもそも、誰が何のためにこのオフィスの日常をドキュメントしているのだろうか」ということ。これについては最後まで観てのお楽しみということで、モキュメンタリー好きの方には欠かせない1本として『The Office』をお勧めしたい。
『The Office』
製作国 アメリカ
企画: リッキー・ジャーヴェイス、スティーヴン・マーチャント、グレッグ・ダニエルズ
製作総指揮:グレッグ・ダニエルズ、リッキー・ジャーヴェイス、スティーヴン・マーチャント
出演: スティーヴ・カレル、レイン・ウィルソン、ジョン・クラシンスキー、ジェナ・フィッシャーほか
Written by 相原 拓
[JVTA発] 今週の1本☆ 6月のテーマ:変化
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。