発見!キラリ 『ヤッさん』
7月のテーマ:意外
原宏一氏の人気小説シリーズ『ヤッさん』がこの夏ドラマ化される!
ここ数年、原氏の奇想天外な世界にハマっている私はこの小説の大ファン。しかし、主人公のヤッさん役が伊原剛志さんと聞いてちょっと「意外」だった。小説ではヤッさんのことを“角刈り頭をゾロリと撫で上げる”などとかなり無骨なイメージに描いている。つまり、伊原さんは格好良すぎる気がしたのだ。
ヤッさんは、築地市場の仲買人の店や都内の名店や高級ホテルなどを訪ねては新鮮な食材を試食したり、賄飯をふるまわれたりと、どこに行っても歓迎されている謎の男。どうやら食の情報通らしい。驚くべきは彼がホームレスで無一文、この食べ歩きを生業としているということ。そんな設定あり?!という奇抜さが人気を集め、現在までにシリーズ3作が出版されている。
「ホームレスの矜持を持て!」が口ぐせのヤッさんは誇り高き自由人だ。数寄屋橋公園の植え込みに洗面道具や着替えを隠しながら、トイレの水道を拝借して毎日顔や身体を洗って身ぎれいにし、洗濯も欠かさない。夜はさまざまな場所で野宿をし、明け方に築地へ向かう。移動手段はどこへ行くにもジョギング。銀座から新大久保だって鮮やかに駆け抜けてしまう。「ホームレスは保険もないから体力勝負」と常に腹筋、背筋、腕立て伏せ各100回を朝晩こなしている。ちなみに、伊原さんはそんなヤッさんを演じるためにトレーニングをし、この2カ月で7.5キロ落としたという。
身の上話が嫌いなヤッさんは自分の過去を語らないため、その素性は定かではない。しかし、食に関しては驚くべき知識を持っており、時には忙しさに殺気立った厨房に入って手際よく料理もこなしている。そして、口は悪いが誰からも頼りにされていて、どんな難題もまるく収めてしまう。この人一体何者? どんな経緯でホームレスになったのか? という好奇心を駆り立てられ、グイグイと話に引きこまれてしまうのだ。その「意外」な過去は彼をとりまく仲間たちの話によって少しずつ明らかになっていく。
原氏の小説を読むと、「これはリサーチが大変だろうな」と感じることが多い。ヤッさんのセリフからも「兄貴とは、鮮度の落ちた食材の隠語」「勝手口を見ればその店のすべてが分かる。ゴミ(残飯)が多く食材の段ボールが山積みはダメ」「飲食業で儲けるつもりなら、まずは本当に味が分かる2割のお客に認めさせちまえ」など、食業界の一端を覗き見することができる。また、移転を前に揺れる築地の仲買人の微妙な心情も丁寧に描かれている。こういうリアルなディテールがあることで、「実はヤッさんは実在しているのでは?」という気がしてしまうのは私だけではないはずだ。
『ヤッさん~築地発! おいしい事件簿~』はテレビ東京系で7月22日夜8時からスタート!ちなみに、主題歌は世良公則さんの名曲「宿無し」だとか。この選曲にはシビれた…。
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Written by 池田 明子
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 7月のテーマ:意外
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。