発見!キラリ トリプルアクセルと浅田真央さん
4月のテーマ:とっておき
2017年4月10日夜に競技引退を発表した浅田真央選手。
現役引退会見での彼女は、とても晴れやかな笑顔で5歳から始めて20年以上になる現役生活を締めくくった。彼女の代名詞とも言えるのが、三回転半のジャンプ、トリプルアクセルだ。
女子でISU(国際スケート連盟)公認の国際大会で成功したのはこれまでわずか7人。その中でも、今のところ3年以上継続して成功したことがあるのは、伊藤みどりと浅田真央の2人だけである。
浅田真央が選手として憧れ、トリプルアクセルを目指すきっかけになった伊藤みどりでも、実はこの大技を試合でやっていたのはカルガリー五輪終了後の1988年から1992年アルベールビル五輪までの4年間だった。
一方の浅田真央はジュニア時代の2002年から引退前年の2016年までトリプルアクセルを成功させていた。10代後半の時期に身長も伸び、体型も変化するなかで、これだけの長期間にわたり挑戦し、成功し続けてきたのは奇跡的なことで、こんな選手はもう当分現れないだろう。
フィギュアスケートのジャンプの技術の進歩は近年めまぐるしいと言われているが、女子にとっての三回転半への壁は今も高く険しい。浅田選手が出場できなかった2017年の世界選手権では女子でこの技に挑んだ選手はゼロだった。
あくまで「たられば」の話だが、もし彼女が選手生活の後半、トリプルアクセルを封印し他の技のレベルアップに集中していれば、まだまだ現役で平昌五輪も上位を狙えるポジションにいられたのではないか、とも思う。
しかし彼女にとって、順位やメダルよりも、トリプルアクセルは「とっておき」であり「不可欠」な要素だったのだ。
浅田選手といえども試合での成功率は3割強だったと言われている。引退会見で「トリプルアクセルに言葉をかけるとしたら?」という珍質問に対し「なんでもっと簡単に飛ばせてくれないの」と絶妙?な切り返しをしたが、これもまた彼女の本音だったのだろう。
スケートの試合には必ず本番の直前に6分間の練習滑走がある。
この競技を長く見てきた人なら、大体何分くらいに、どんな助走の軌道を描けば、「あ、次はトリプルアクセル」とすぐにわかる。例えそこに6人の選手が滑っていても、間違いなく9割以上の観衆はその瞬間浅田選手だけを注視している。そこでこの大技を決めた際は割れんばかりの歓声と拍手に包まれる。練習滑走でこれほどの盛り上がりを作れる選手はもう二度と現れないだろう。そういう点でも彼女は不世出のスケート選手だ。
彼女はこの夏からプロスケーターとしてアイスショーの活動を開始する。さすがにもうトリプルアクセルに挑むことはないだろうが、プロになった浅田真央がどんなスケートを見せてくれるのか、今から楽しみだ。
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Written by 筆谷信昭
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 4月のテーマ:とっておき
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。