発見!キラリ 自然の怖さを知った! 危機一髪体験
5月のテーマ:自然
東京で生まれ育ち、“田舎”もない私が「自然」と聞いて思い出す唯一の場所が留学で約3年半住んでいたアメリカのミシガン州だ。日本の人たちにはあまり馴染みのない州だが、「デトロイト」「五大湖」と言えば少しはピンと来るだろう。
私が住んでいたのはデトロイトから西へ車で2時間ほど行ったところにある「カラマズー」という都市。とは言え、ダウンタウンは小規模で、建物より芝生や木々のほうが目立ち、リスがあちらこちらで走り回っている田舎町だ。そして、通っていた州立大学のキャンパス内ではリス以外にもタヌキ、うさぎ、ほたるなど、テレビや動物園でしか見たことがなかった野生生物と遭遇することもあった。車でフリーウェイを走っていると両脇の林から鹿が現れることもしばしばで、飛び出してきた鹿を車がひいてしまうことも(私は幸いにも経験がなかったが…)。そんな事故が起きると、もちろん警察を呼ぶのだが、ちょっと驚きのルールがある。警察に許可を得れば、ひいてしまった鹿を車に積んで持ち帰ることができるのだ。ミシガン州は狩猟が盛んなので、あまり抵抗がないのだろうか。なんとも原始的な文化だ。
春と夏は緑が生い茂っているこの町も、冬になると銀色の世界が広がる。何日も雪が降り続き、雪かきが間に合わないほど積もれば、大学が休校になることも…。雪が降らない日は零下のことが多く、私が住んでいた時は零下25度を記録したこともあった。凍ったバナナで釘が打てたかもしれない。
そんな冬に1度だけヒヤッとする出来事を経験した。ある早朝、電車に乗って出かける友人を駅まで車で送りにいった帰り道、私はキャンパスの手前にある踏切に差し掛かった。電車が近づいていることを知らせる遮断機の音が鳴っていたので、私はブレーキを踏んだ。しかし、力強く踏んでいるにも関わらず車は減速するが止まらない。その日、雪は降っていなかったが、気温が低かったため地面に氷が張っていたのだ。私はダメもとで「止まれ!」と念じながら再度ブレーキを力いっぱい踏んだ。念が通じたのか何とか止まったものの、線路までは数センチしかなく、このままでは確実に電車とぶつかる。すでに私は遮断機の中に入ってしまっていたのだ。アクセルを踏んで遮断機を突き破って逃げる方法もあるが、その時によぎったのは「莫大な弁償金を取られたり、器物損壊で捕まったりしても困る」という考えだった。前がだめなら後ろしかない。後ろを振り返ると遮断機と線路までの距離がかなりあり、遮断機を壊さずに後ろに下がれる余裕がありそうだ。私は後ろのトランクに遮断機の棒が乗るくらいまでバックをし、車が前に進まないことを祈りながら電車が通りすぎるのを待った。幸いにも車はそのまま止まったままでいてくれて、気づけば目の前の遮断機も上がっていた。何も壊さず、命を無駄にすることもなく、難を逃れることができたのだ。安堵すると同時に、今起きたことを誰かに話さずにはいられず、踏切の先にある半年通ったELSのオフィスへと車を走らせた。オフィスに入るや否や馴染みのスタッフに駆け寄り、私は興奮気味に起きたことすべてを話した。
今となっては思い出話だが、一歩判断を間違えたら大惨事だ。自然が多い場所に住むことは豊かな経験でもあるが、危険が多いことも身をもって学んだ3年半になった。ミシガン州を離れてから18年ほど経ち、近々「里帰り」を計画中だ。
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Written by 小林 由布子
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 5月のテーマ:自然
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。