今週の1本 『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』
5月のテーマ:自然
今は東京で暮らしているが、私は断然、田舎派だ。たぶん、学生時代の自分に「将来、東京に住むよ」と今教えたとしても絶対に信じないだろう。今でも田舎、特に生まれ育った三重県が恋しくなることがある。地元も相当な田舎だが、車で数十分のところに山や田んぼに囲まれ、スーパーも何もない“ザ・田舎”というような村がある。小さい頃はそこで川遊びをしたり、キャンプしたりした思い出の地だ。なんと、その村が映画の舞台になった。それが林業をテーマにした映画『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』だ。
大学受験に失敗し、進路が決まっていない18歳の主人公は、たまたま見つけたチラシに載っていた美女にひかれて1年間の林業研修のプログラムに参加する。厳しい山仕事や田舎ならではの習わしなどにカルチャーショックを受けつつも、村人や自然とのふれあいの中で成長していく様子がコメディータッチで描かれている。
主人公はかなりチャラついた根っからの都会っ子で、ど田舎で林業をする日が来るなど、夢にも思っていなかったに違いない。チラシの美女に釣られてノリだけで村に来てしまった彼は、電車もなく、携帯もつながらず、遊ぶ場所もない村に絶望するが、次第にその魅力にも気づいていく。オシャレなランチスポットがなくても山で食べるお弁当は格別だし、携帯が繋がらなくても村の人はいつも気にかけ、受け入れてくれる。
この村の特に良いところは「なあなあ(ゆっくりいこう、落ち着いていこうという意味の方言)」の精神だ。映画の中で、「今、木を植えても伐採するのは100年後。成果は見届けられないが100年後の人たちのために木を育てている」というようなセリフがある。百年単位でサイクルしている林業では焦っても仕方がないから、この精神が根付いているのだ。100年後の世界と繋がっていることが実感できる仕事なんて、そうそうないだろう。
この映画を観ると、地元や小さい頃の楽しい記憶と同時に、日々仕事に追われて忘れてしまいがちな「なあなあ」の精神を思い出せる。そして、「もしかすると100年後、自分の作った字幕を見てくれる人がいるのかも」と、遠い未来に想いを馳せたりするのだ。
『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』(2014)
監督:矢口史靖
出演者:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明ほか
制作国:日本
制作年:2014年
Written by 満仲 由加
[JVTA発] 今週の1本☆ 5月のテーマ:自然
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。