今週の1本 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』
12月のテーマ:Destination
近年SiriやCortana、Pepperなど生活に寄り添う形のAIの発展が話題になっている。呼びかけるだけで、検索や簡単な“小噺”やラップもしてくれる、非常に便利で面白い機能だ。もし、AIがこの先人間のように個性や感情を持ったら、この世界はどうなっていくのだろうか?
今回はそんなAIが行きつく先の一つを描いた作品を紹介したい。
テレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』は1995年に公開された映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』のパラレルワールドとして制作されたアニメシリーズだ。
西暦2030年。インターネットの発展により、世の中には凶悪犯罪が増加している。それらを取り締まるために設立されたのが公安9課、通称「攻殻機動隊」だ。9課は、ほぼ全身サイボーグの草薙素子をリーダーに、元自衛隊レンジャーのバトー、警視庁から引き抜かれたトグサなど多様なメンツで構成されている。彼らは人身売買や、テロ、ネット工作など様々な事件を解決しつつ、2024年に起きたサイバーテロの未解決事件「笑い男事件」を追っていく。
9課には多脚戦車、通称タチコマという9機の兵器が存在する。彼ら(本当は“それら”と示すべきだが、あえて“彼ら”と呼ぶ)はAIを搭載し、自らが思考し行動する戦車だ。ここまでは、近年見かけるその辺のAIと変わらないのではないだろうか。私がタチコマを“彼ら”と呼ぶのは、彼らが今のAIではまだ獲得できないであろうものを手に入れたからである。それは「個性」だ。
タチコマは、一機が得た知識や経験が他の全機に並列化という形で共有される。全機が同じ知識量、同じ思考になり、個体差、つまり個性は生まれないように作られていたのだ。しかし、バトーがある一機だけに「天然オイル」与え続けたことで、タチコマのコアを刺激し個性が生まれはじめてしまう。
最終回に近づくにつれ、タチコマ各機の個性が目立つようになる。リーダーのように仕切る機、本に興味を示しひたすら読書に励む機、バトーの専用機としてのアイデンティティを持つ機などが出てくるのだ。もしタチコマがヒト型として生産されていたら、人間なのか機械なのか見分けがつかなくなるだろう。
そんなタチコマは、今後人間の脅威になる可能性があるという理由で、ラボ送り(研究材料として解体)という酷な処分を下される。
彼らは任務遂行や駆逐を目的とし作られた兵器だ。しかし、彼らは人間と同じように個性を持ち、考え、学び、話す。これはもう人間とほぼ変わらないのではないだろうか? そもそもこの『攻殻機動隊SAC』は、“電脳化”や“義体化”が描かれ、人間の身体が機械化されている世界だ。脳みそ以外ほぼ機械のサイボーグと、思考し個性を持つ兵器の差は一体何なのか。
2017年、春。私たちが今生きている現実の世界でも1/8スケールで具現化されたタチコマが販売され始めた。簡単な会話やネット検索、スケジュール管理などができるらしい。このタチコマも全機が学習機能を持ち、並列化をする。しかし、アニメと同じように個性のような人間に近いものを持つことはないだろう。だが、もしこの先AI技術の発展、または天然オイルのようなちょっとしたきっかけでタチコマに個性が生まれたら…。現実の世界で彼らはどこまで進化を遂げるのか? その行き先が今とても気になる。
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』
原作・協力:士郎正宗
企画:石川光久、渡辺繁
プロデューサー:松家雄一郎、杉田敦
監督・シリーズ構成:神山健治
音楽:菅野よう子
2002年から2005年に日本テレビで放送
Written by 岩佐恵莉奈
〔JVTA発] 今週の1本☆ 12月のテーマ:Destination
当校のスタッフが、月替わりのテーマに合わせて選んだ映画やテレビ番組について思いのままに綴るリレー・コラム。最新作から歴史的名作、そしてマニアックなあの作品まで、映像作品ファンの心をやさしく刺激する評論や感想です。次に観る「1本」を探すヒントにどうぞ。
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