発見!キラリ 「止まない風」
5月のテーマ:風
人は、太く短く派手に豪快に疾風の様に潔く散るような生き方に憬れるのかも知れない。とりわけ、ロックの世界ではジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソン、ジャニス・ジョプリン、ブライアン・ジョーンズ、カート・コバーンなどが、いわゆる「27クラブ」と呼ばれ、絶頂期のど真ん中(と思われる)に27歳の若さで散って行った。
彼らの刹那的な生き方や発言は伝説となり、残された音楽が時を重ね魅力を増していく。そして人々は残されたレガシーを追い続け、生き方やファッション、そして彼等の音や歌詞に影響を受け、やがてそれはミュージシャンの枠を越え、その時代のカリスマになってゆくのだ。
それとは対照的に、疾風の様な時代を生き抜きながらも、シニアと呼ばれる世代にさしかかってもなお、“止まない風”となって転がり続ける者もいる。各地に点在する、大きくてもせいぜい数百人規模のライブハウスでは、かつてアリーナクラスを満員にしていたアーティストがライブ活動を行っている。時には地元の若手バンドが前座を務める事も珍しくない。各地のライブハウスでその様なライブを何度も体験して来たが、中には機材の搬入や準備をするローディー役を自ら行い、出番前はライブハウスのバーでファンと談笑をし、ライブ後は自分で機材車を運転してツアーを行っているアーティストもいる。その光景を目の当りにし、慣れていない時は衝撃を受けたものだった。集客はおそらく全盛期の数十分の1にも満たないであろう。年齢的にもこの先いつまで続けられるか分からない。ただ、彼らの多くには悲壮感など微塵も感じられない。歳を重ね、出す音にも老いを感じてしまうのに、ステージ上の彼らは、その瞬間に悦びを感じているミュージシャンそのものだった。
「風」というテーマを知って反射的に思い浮かんだのはThe Street Slidersだった。彼等の歌詞には「風」が多く登場し、それが自分の心に深く刻まれているからだ。18年ほど前に惜しまれながら解散してしまったバンドだが、解散後はメンバーそれぞれが独自の活動をしている。昨年、ボーカル/ギターのHARRYが埼玉のライブハウスで行ったライブに参加した。かつて日本武道館で演奏をしていたバンドのフロントマンがどの様なパフォーマンスをするのか、期待と小さな不安が入り混る複雑な気分で臨んだ。しかし、その不安をよそに手を伸ばせば届きそうな場所で歌う彼の姿は、映像で見た20年前のHARRYそのものだった。彼の風は吹き始めてから止んでいなかったのだ。ライブ会場を見渡してみれば、かつてのロックキッズ達がその風を受けていた。そしてまたいつか自分も、この風に吹かれに来ようと思った。
Written by 斉藤良太
[JVTA発] 発見!キラリ☆ 5月のテーマ:風
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。
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