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発見!キラリ 「雨が嫌いだからオレンジ色の傘をさすよ」

発見!キラリ  「雨が嫌いだからオレンジ色の傘をさすよ」


 
6月のテーマ:雨

 
雨の日は決まって頭痛に悩まされる私にとって、梅雨は天敵である。前の晩にチェックした予報が、変わってくれてたらなぁ、という淡い期待を抱きつつ、お天気アプリと、同僚に教えてもらったアプリ「頭痛―る」を毎朝チェック。頭痛が始まりそうな予兆を自覚するとすぐに痛み止めを飲む。梅雨をどう乗り切るのか、毎年この季節の課題である。

 
アトピー性皮膚炎に長年悩まされていたアメリカ出身の同僚Tは、毎年梅雨が待ち遠しいという。症状が日本に来てから軽減したのだ。

 
「日本の梅雨、大好き。この湿度がたまらないっっ!」

 
と、湿度と温度の上昇と共に、心を躍らせるというきわめて稀有な人である。相当ポジティブかつパワフルなバイブレーションを毎日横から浴びているにも関わらず、梅雨なんてちっとも嬉しくない。私の雨に対するバイアスはかなりなものだ。

 
いったん巣食った苦手意識は、そう簡単にポジティブ変換されないものである。仕事や対人関係にも、この厄介な感情が芽生えてしまうことはしばしば。気持ちが上がったり、下がったり、落ち込んだり喜んだり。ある人の前だと途端にうまくしゃべれなかったり、そのジャンルの仕事になるといつも失敗してしまったり。無駄に肩の力が入ってしまい、思い描いたものとは、遙か違う結果になっていたり。この悪循環にどう決着つけようか。

 
喜びも悲しみも上機嫌も不機嫌も伝染すると言ったのは、フランスの哲学者アラン(本名、エミール=オーギュスト・シャルティエ)。気分に任せて生きる人はみな、悲しみにとらわれ、やがて苛立ち、怒り出すというのだ。彼はまたこうも言う。

 
「ほんとうを言えば、上機嫌など存在しないのだ。
気分というのは、正確に言えば、いつも悪いものなのだ。
だから、幸福とはすべて、意志と自己克服とによるものである」

 
この憂鬱さは、雨のせいではなく、自分のせいだったのですね、アランさん。なるほど。さらに雨に対しはアランさん、こんなことを言ってくれていた。

 
「雨が降り出してきたら、舌打ちなんかせず、軒下に出て悠然と傘を広げよう。
傘がなけりゃ、ああけっこうなお湿りじゃないかと言おう。
人間関係もこの雨と同じだ。
対応の仕方はいくらでもあるものだ。
要するに、自分のため、できるだけ気持ちよく過ごすためには、
いやな言葉を吐いたり、いやな思いを抱いたりしてはならない」

 
もう、ほんとすみません。恵みの雨なのに。この夏はどうやら猛暑になるらしく、今のうちたくさん雨は降っていないとダメなのに、やれ頭痛いだとか雨のせいでやる気が出ないとか、ほんとすみません。悲観主義とは感情によるもので、楽観主義とは意思によるものであると、いろいろなビジネス書でも見てきましたよ。はい。まあ対自然、対天候。どうあがいても感情に対しては自己克服しかないのだなということで、今年の梅雨対策として、長靴とレインコートは、大好きな水色で臨んでやる。少しでも気分が上がるようオレンジ色の傘も買った。

 
よし。あとは、雨が降ってもアラン的にポジティブにゆるーっといこう。『幸福論』でも読み直すか。むしろこの季節、ポケットに携行するか。

 
そんな中、私の斜め前の日本人同僚Iは、今日も不機嫌マックスにこう叫ぶ。
「マジ許せない。湿度、マジムカつく」

 
伝染しそうな自分との戦いのシーズン(梅雨)は始まったばかりである。

 
※出典:『幸福論』(神谷幹夫訳、岩波文庫)

 
Written by 浅川奈美

 

[JVTA発] 発見!キラリ☆  6月のテーマ:雨
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。

 
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