発見!キラリ「照る月は満ちて欠けまた満ちる」
10月のテーマ:月
曇りのない空気の澄んだ夜に空を見上げるのが好きで、たまに気が向いたそんな夜はなぜだか満月であることが多い。夜空にくっきりと浮かび上がる満月を見るたび、もちろん美しいなあとも感じるが、それと同時に「もう1ヵ月経ったのか」と思う。無意識のうちに時の経過を知らせてくれる存在とでも言おうか。スーパームーンが見たいなどと狙うわけではないが、なんとなくの周期で夜空を見上げると、そこには必ず満月が輝いている。そんな感じだ。
月の満ち欠けは人生にも似ているなあと感じる。どのステージにおいても、ある程度の年月と経験を重ねて人生は満ちていき、また新たな幕開けに向けて欠けていく。小さな満ち欠けが幾度となく繰り返され、積み重なれば積み重なるほど、(ナイーブな表現かもしれないが)人生は深みを増し面白みを増す。場合によっては満ちるまで行かずに意に反して途中で終わってしまったり、欠ける前に自らリセットしたりすることもあるだろう。でもそれもまた、複雑に他のステージと絡み合い、何か別の大きな別の満ち欠けの一部を成すはずだ。
さて映像翻訳の世界に足を踏み入れてからの私は、現在第2ステージの真っ只中にいる。第1ステージはJVTAに初めて足を運んだ学生の頃に始まり、つい2年ほど前まで続いた。自分でも翻訳をこなしながら翻訳者さんに発注しディレクションをし、入念なチェックとフィードバックを繰り返して理想の字幕を完成させるため走り続けた。満ちるだけ満ち続け翳(かげ)ることなどあり得ないかと思っていたが、そんな日々は10年を超えた頃に小休止を迎えることになる。社内異動で受発注部門を離れ、スクールを統括する業務に就くことになったのだ。思い返せば、ちょうど自分の中にも少し、翻訳者として走り切った感があったかもしれない。思ったほど悩むこともなく、私はすんなりと新たなスタートを切った。
すぐにJVTA創立20周年を記念して発足したチームに加わることになった。従来の翻訳研究では語られてこなかった、英語から日本語への字幕翻訳を分析し、そのメカニズムを解くという壮大なプロジェクトだ。そうして出来上がったのが、つい先日出版した電子書籍『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』。かつて寝食を忘れて共に翻訳に打ち込んだ仲間とともに、また夢中になって字幕と向き合った2年間。完成した本を手にした今、私はまた翻訳に没頭したい欲求がむくむくと湧き上がるのを感じている。
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Written by 藤田奈緒
ふじた・なお●日本映像翻訳アカデミー講師。受講生・修了生サポート部門リーダー。同校を修了し、映像翻訳者として活動。その後、修了生のための就業支援部門「メディア・トランスレーション・センター(MTC)」でディレクターを務め、現職に至る。国連UNHCR難民映画祭の字幕制作総合ディレクター、明星大学非常勤講師としても映像翻訳の指導を行う。
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[JVTA発] 発見!キラリ☆ 10月のテーマ:月
日本映像翻訳アカデミーのスタッフが、月替わりのテーマをヒントに「キラリ☆ と光るヒト・コト・モノ」について綴るリレー・コラム。修了生・受講生にたくさんのヒントや共感を提供しています。
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