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【コラム】JUICE #13「マイナーアップデート」●桜井徹二

【コラム】JUICE #13「マイナーアップデート」●桜井徹二

昨日から、『銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎』(ジャレド・ダイアモンド著)を読み始めた。人類が大陸ごとにそれぞれ異なる発展を遂げた要因を解き明かしていく歴史書だ。書籍の冒頭からその答えはおおまかに示唆されている。
 

銃・病原菌・鉄_上 銃・病原菌・鉄_下
 

種の移動を容易にする大陸の形状、栽培や家畜化に適した動植物の存在などが、人類の発展に差異を生んだ究極の要因だという。つまり、人類は自らを取り巻く環境に否応なく影響を受けながら、それぞれ異なる発展の道をたどったということになる。いかにも壮大なスケールの話だが、僕は世俗的な人間なので、つい読みながら身近なことに置き換えてしまう。「これはあれかな、年上のいとこの影響で洋楽を聴き始めるみたいなことかな」とか、「語学留学から帰ってきた子の化粧の雰囲気が変わってるみたいな感じか」とか、スケールが小さいだけでなく、理解の助けにすらなっていない思考がいちいち脳裏をよぎる。
 

それはともかく、誰もが周りの環境に影響を受けながら成長していったというのは確かだろう。僕も10代や20代の頃は周りの人々からはもちろん、音楽、映画、本、いろいろなものに感化されていたし、ある部分においてはかなりあからさまに影響を受けていた。ファッションでいえば、グランジ系の音楽を聴いていた頃はカート・コバーンみたいな恰好をして、ブリット・ポップを聴いていた頃はデーモン・アルバーンみたいにサッカーのユニフォームを着たりしていた。かと思えば、付き合っていた人の影響でサンダルにベルボトム、みたいな恰好をしていた時期もある(ここだけの話)。
 

その一方で、やみくもに旧来の価値観にこだわるような姿勢をどこか軽蔑していた。大人たちが若い頃に聞いていたビートルズやローリング・ストーンズを相も変わらずありがたがるなんて、怠慢で、思考停止したつまらない行為、くらいに思っていた。
 

「大人たち」の一員になった今では、10代の頃のように変化し続けるのは簡単ではないことがよくわかる。忙しくて時間もないので新しいことに取り組みづらいし、自分の好みがわかってくるからあまり無駄なチャレンジもしなくなる。それでも、やはり今も基本的な考えは変わっていない。ときおり何かの影響を素直に受け入れて、自分にちょっとしたアップデートを施したいと思っている。
 

最近でいえば、以前は避けていたスーツやネクタイをちょくちょく身につけるようになった。仕事の内容の変化や年齢的な理由もあるが、じつは一番の理由は、少し前にダニエル・クレイグの「007」シリーズを観てかっこいいなと思ったせいだ(ここだけの話)。
 

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Written by 桜井徹二
 

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さくらい・てつじ●JVTAの映像翻訳ディレクターとして、MTVやBBCのドラマ、ドキュメンタリー、リアリティ番組やMOOC(大規模オンライン公開講座)用字幕などを手がける。本科のほか、明星大学、青山学院大学などの教育機関でも講師を務める。『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』(小社刊)の執筆にも参加。

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