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【コラム】JUICE #35「ゲーム・オブ・スローンズ」●屋鋪桂子

【コラム】JUICE #35「ゲーム・オブ・スローンズ」●屋鋪桂子

毎年、エミー賞の話題が出ると秋の訪れを実感します。今年のエミー賞の目玉といえば、やはり史上最多32のノミネートを記録した「ゲーム・オブ・スローンズ」だったのではないでしょうか。今回、「ゲーム・オブ・スローンズ」(以降「GOT」)からは助演男優賞候補が3名、助演女優賞候補が4名選ばれるという類を見ない多さで、これはたった1タイトルに魅力的なキャラがひしめき合っていた表れだと思います。私のお気に入りのキャラであるティリオンを演じたピーター・ディンクレイジは見事、助演男優賞に輝きました。個人的には主演男優賞をあげてもよかったと思っています。
 

ドラマの歴史に大きな名を刻んだとも言われる「GOT」ですが、最終章と銘打たれたシーズン8(全6話)は、2019年の春に放送されました。シーズン7まではネット配信で視聴してきた私ですが、せっかく「世界同時放送」を銘打っているのだから最終章リアルタイムで見てみようと思い立ち、第一話が放送される4月15日(月)朝9時50分、軽い気持ちでテレビの前に座りました。
 

結論からいえば、それから6週間、私は毎週月曜の朝にテレビの前に正座して「世界同時放ってスゴイ! 超楽しい! 最高!イェー!!」のテンションで、思う存分リアルタイム視聴を満喫しました。
 

“準備”は日曜から始まります。月曜に後顧の憂いなくドラマを視聴するために、月曜分の仕事を週末に片付けてしまいます。日本最速放送となる月曜朝10時は、10分前からテレビの前にスタンバイ。飲み物とお菓子(ビールとおつまみにあらず)もわきに備えます。トイレをすませておくのも忘れません。放送なので「ちょっとタンマ。停止ボタン押して」などとは言えません。初見から得られる衝撃と感動は一発勝負なのです。
 

放送直後は、ある回では抜け殻のように呆然とし、ある回ではしくしくと涙を流し、ある回では地団駄を踏んでバタバタしましたが、気を取り直してネットにアクセスします。そこにはたった今視聴を終えたばかりの「GOT」ファンが、あらゆるSNSに感想を投稿しています。ツイッターの「トレンド」機能にはその時間帯に話題になっている単語が一覧表示されるのですが、「GOT」の初回放送直後は、「世界のトレンド」がキャラ名で埋め尽くされます。世界のトレンドだけではありません。ありとあらゆる国のトレンドが「GOT」用語であふれています。世界の熱狂ぶりが面白くていろんな国のトレンドをチェックしました。ドイツ語もデンマーク語もアラビア語もわからない私ですが、読めない単語の合間あいまに英語のキャラ名が表示されているのを見て、世界中の同志が一斉に同じことをつぶやいている事実に胸が熱くなりました。
 

世界中の人があーだーこーだ言い合うのですから、いろんな考察や豆知識が入ってきます。初見では気づかなかった細かな演出などもふむふむと心に留めつつ、月曜夜10時の再放送のためにスタンバイします。(今度はビールとおつまみで)。再放送を楽しんだ後は、次の月曜までの1週間、次週は誰が死ぬのか、どんな衝撃の展開がまっているのか、世界中の人とあーだこーだと予想し合うのでした。
 

「世界中の人々」とざっくりとした書き方をしましたが、「GOT」最終章の最終回をリアルタイム視聴した数は、アメリカ国内で1930万人といわれています。世界規模だと国が多すぎで正確な数は計上できないとか。ちなみにこの最終回のストーリーは賛否両論で、結末に不満を持つファンが再製作を求める嘆願書を作成し、集まったオンライン署名は120万人にものぼりました。
 

huluやNetflixなどの動画配信サービスが台頭し始めた頃、ドラマの視聴方法は変化しました。「好きなタイミングで視聴できる」「シーズンをまとめていっきに見られる」などの利便さの前に、スポーツ観戦ならともかく、ドラマをリアルタイムで見ることの意味などなくなりつつあると考えていたのですが。「GOT」最終章では、みんなでワイワイ盛り上がりながら1週間、次の放送を心待ちにするという、どこか90年代頃に戻ったかのような楽しみ方を大いに満喫しました。今後も世界同時配信の楽しみを模索していきたいなとは思いつつ、これだけの盛り上がりを見せたタイトルは後にも先にも「GOT」しかないのではないかとも思っています。
 

(関係者への業務連絡:月曜分の仕事は日曜に終えてます。えっと、多分、まあ終わってたはずです。いまさらお小言は受けつけません!)
 

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Written by 屋鋪桂子
 

やしき・けいこ●MTC(メディアトランスレーションセンター)の映像翻訳ディレクター。2007年4月期に英日映像翻訳科を修了。トライアル合格後、フリーランスを経て現職。

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