【コラム】JUICE #38「『プラダを着た悪魔』の先の物語、『マイ・インターン』」●平石真紀
アメリカを代表する大女優メリル・ストリープとの共演が叶った『プラダを着た悪魔』(2006年)で、ジャーナリスト志望の野暮ったい若い女性の華麗な変身と成長を演じたアン・ハサウェイ。彼女が本作のその後を連想させる作品として出演を決めたのが『マイ・インターン』(2015年)だ。
『マイ・インターン』の公式サイトにある予告編の冒頭は、“『プラダを着た悪魔』から9年 恋に仕事に頑張ってきた あなたの次の物語”で始まる。『プラダを着た悪魔』にどハマりした私は、完全にこの冒頭にノックアウトされ、劇場で作品を観ずにはいられなくなった。
監督は『恋愛適齢期』や『ホリデイ』を手がけたナンシー・マイヤーズ。ストーリーは、ファッションサイトを運営する会社の社長(アン・ハサウェイ)に70歳のインターン(ロバート・デニーロ)がつくという内容。極めつけは、予告編の最後に流れるナレーション。“『マイ・インターン』 あなたにも届く幸せのアドバイス”。これを聞いた女性の多くが、“絶対に観る!”と思ったに違いない。
かつて「そんなことを思ったなあ」と思い出すきっかけとなったのが、先日、本作が地上波で初放送された時だった。残念ながら作品の後半部分しか見られなかったが、ちょうど私が好きなシーンを見ることができた。それは、アンが演じる社長ジュールズが会社の経営方針と夫婦関係の危機に直面し、ロバート演じる70歳の人生経験豊富なベンがアドバイスをするというところだった。会社を立ち上げ、自分の力で大きくしてきたバリバリのキャリアウーマンが、仕事に追われ、夫や娘との関わり合いが減り、次第に後ろめたさを増していく――。「少しでも家族との時間を大切にしたい」と、自分の代わりに会社を経営してくれるCEOを雇おうとする最中、夫の浮気が発覚。そのことを知ったベンがジュールズの気持ちに寄り添いながら、「誰にも遠慮することなく自分らしく生きなさい」と諭すシーンだ。
今でもこのシーンは好きだが、最初に観た時と少し違う感じ方をした。劇場で始めて観た時は、“仕事で頑張っている妻のことを裏切って浮気をするような男とは、さっさと別れてもっといい人を探すべし!”と強く思った。だが、今回は「娘のことを考えると、すぐに離婚はできない」、「私たち夫婦は他のカップルとは違って、きっとやり直せる」といった言葉に少し共感したのだ。おそらく、当時と違う、自分の今の環境(結婚し、子どもがいるという環境)が理由だと思われる。その時の身の回りの環境によって、違う角度から観たり感じたりできる作品は、やはりよく出来ているし、何度も観たくなるのだなと思った。
当時と同じ感覚を抱くところもあった。前述したシーンの中にある「1人でお墓に入るのは怖いから離婚できない」といったセリフ。これにはまだ共感できない…。少なくとも、離婚しない理由の一つにはならないと感じた。だが、もしかすると年齢を重ねていくうちに共感する日が訪れるのかもしれない。その瞬間が来る日を少し楽しみに待ってみようと思う。
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Written by 平石真紀
ひらいし・まき●映像翻訳スクール部門スタッフ。イギリスで幼少期を過ごし、一度帰国。高校からアメリカに渡り、大学を卒業後に帰国。その後、大手子ども英語スクールにて8年間講師を務める。現在は、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)スタッフとして映像翻訳に携わる一方、国際教育推進パイロット校で英語講師を務める。
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