【コラム】JUICE #61「パラサイト 半地下の家族」●朴ソンジュン
年末年始は世界中で映画祭が行われている。その年の傑作がしのぎを削る中、今年各国の名だたる映画祭の中心にあったのは『パラサイト 半地下の家族』であることは疑う余地がないでしょう。米アカデミー賞では外国語作品として史上初の作品賞に加え、4冠を達成。昨年のカンヌ国際映画祭(フランス)をはじめ、青龍映画賞(韓国)、英国アカデミー賞(イギリス)、ゴールデングローブ賞(アメリカ)など世界の映画祭で受賞している。今回はその『パラサイト 半地下の家族』について韓国人+個人的な見解を入れつつ見どころを話したい。既に作品をご覧になった方は復習の意味で、まだの方は今後作品を見るか否かの材料として楽しんで頂きたい。(※多少ネタバレあります)
作品のストーリーは古い友人からの紹介でフリーターのギウがIT企業の社長の家(裕福な家庭)の家庭教師になるところからはじまる。ギウがきっかけとなり、父、母、妹も同じ家庭で働く事になるストーリーだ。
ディテール好きなポン・ジュノ監督なので、この作品では細かくて面白い演出がいくつも見られたため紹介したい。
まずは食べ物だ。ギウの家族は作品の前半では安い国産のビールを飲みながら就職を祝う。しかし、作品の後半では輸入の“サッポロビール”を飲むシーンがある。これは一家の収入が安定してきたので、食べ物の質も上がった事を表している。次は話題となった“チャパグリ”だ。“チャパゲティ”と“ノグリ”というインスタント麺をミックスして作る庶民的な食べ物だが、劇中ではハンウ(韓牛:韓国の高級国産牛)がトッピングされて出てくる。簡単に手が出ない牛肉でも富裕層はインスタント麺に乗せて食べるという格差社会を表現している。(個人的なイメージとしては焼きそばに和牛のステーキをトッピングするのと同じだと思う)最後は“台湾カステラ”だ。ギウ一家が半地下生活を強いられたのは父の事業の失敗が原因とされる。数年前、実際に韓国でブームとなった台湾カステラだったが、競争社の増加及びブームの低下によって事業に参入した人たちは多くの借金を抱えた事は今でも記憶に新しい。大変厳しい競争社会であるため、自営業(チキンの店、カフェなど飲食系が多い)をやる人も多いが失敗するケースも多いという韓国社会をうまく表している。
次は“階段”だ。この作品ではいくつかの階段が出ている。主に格差社会を高低差で視聴者に伝えている。はじめてギウが裕福な家庭を訪れた時に、家の入口から階段を上って敷地内に入る。スローで演出されているこのシーンは、ギウがこれまで接する事がなかった上流社会へ足を踏み入れる事に対する不安や、未知の世界に対する恐怖心が描かれている。それ以外にも豪雨の中、ギウ、父、妹が社長宅から家に帰るシーンがある。家まで(上流社会から下流社会)までの道のりは長い。長いトンネルを抜けると、自宅近所には大きな階段がある。この階段の大きさこそ下流社会から上に上がるには大きな壁(階段)が阻んでいる事を伝えようとしていると思う。ハイライトとして社長宅の地下室から秘密の地下室へと続く階段があげられる。秘密の地下室を発見した時のギウ一家の驚きは単なる驚きではなく、“半地下”生活の自分たちが社会の最下層だと思っていたのに、さらに下の層に属している人がいたのかという驚きも含まれていると思う。ギウは、社長宅を買えるほどお金持ちになると父に誓うのだが…。才能があっても、どんなに努力をしても下流社会を抜け出すのは不可能・難しいという現在の韓国社会を最も良く表現していると感じた。
年々広まる格差ゆえ、数年前から韓国では“金のスプーン”、“銀のスプーン”、“泥のスプーン”という言葉ができた。それぞれ経済・社会的ステータスを金・銀・泥で表している。“泥のスプーン”のスプーンは死んでも“金のスプーン”にはなれないと言われており、『パラサイト 半地下の家族』を観た直後にすぐこのフレーズを思い出した。格差社会はもはや世界的な問題だ。社会のダークな部分を独特のコミカルな演出で作り上げたこの作品はとても素晴らしいと思うので、まだの方は是非観て頂きたい。(まだ映画館で上映中ではあるが、新型コロナウィルスの事もあるのでネット配信やDVDをお待ちいただきたい)
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Written by 朴ソンジュン
パク・ソンジュン●新卒として日本映像翻訳アカデミーに入社。グローバル・コミュニケーション・サポート部門(GCS)で日→英、日→多言語の翻訳案件を担当。最近の仕事に「マンモス展 -その『生命』は蘇るのか-」の掲示物の英語版、中国語版の制作ディレクションなど。
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