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【コラム】JUICE #63「これからのルールとテイラー・スウィフト」●ゲイラー世羅

【コラム】JUICE #63「これからのルールとテイラー・スウィフト」●ゲイラー世羅

世界中に“不況和音”をもたらしてるパンデミックなヤツらのせいで、私が住んでいるカリフォルニア州では、自宅待機命令が発出された。実際のところ、スーパー、銀行、ガソリンスタンドなどは利用できるが、ミュージアムやテーマパークをはじめとする観光地はクローズ、レストランはテイクアウトのみなど営業時間や規模を縮小し、街は閑散とした状態が続いている。仕事を失った友人や、経営困難に直面しているビジネスオーナーもいたり、人々の生活や社会が崩れていくのを見たりするのは本当に心苦しい。
 

ウィルス感染予防対策として、自主隔離が推奨されている。世界中で在宅率が高まっている今、お家時間を満喫させるために、映像コンテンツや本、ゲームなどを楽しむ人は増えているだろう。我が家でもNetflixとクランチーロールが大活躍で、普段はあまり興味が湧かないジャンルの作品を視聴する機会が増えている。良いことだ。そんな中、久しぶりに私の世代では時の人と呼ばれていた(今も時の人だが)あの人を画面で見かけた。テイラー・スウィフトだ。
 

ディズニー・チャンネルといえばマイリー・サイラス、マルーン5の『Sunday Morning』がTVコマーシャルで流れ、当時12歳のジャスティン・ビーバーがYouTubeで発掘される。その後、みんなのアイドル、セレーナ・ゴメスとの熱愛が発覚し、日本ではなぜかアヴリル・ラヴィーンが流行っていた。海外ドラマシリーズでは『ゴシップガール』と『The O.C.』が大人気で、イギリスでは、当時最年少ブロガーでファッショニスタのタヴィちゃんがバズり、オアシスがついに解散を発表。フロントマンのリアム・ギャラガーが新バンドBeady Eyeを結成させていた。翻訳に携わる受講生・修了生のみなさんなら、海外のポップ・カルチャーに精通している方が多いと信じて、あえて、その辺の時代と表現したい。そう、テイラー・スウィフトは、私にとってアメリカ文化や英語を習得することに夢中になっていた頃の「時の人」。私の友人にもファンが多く、『Speak Now World Tour』で来日中には、Twitterのフィードが彼女の情報で埋め尽くされた。同世代なら「わかるー!」と共感してくれたら嬉しい。
 

Netflixで配信中のドキュメンタリー『ミス・アメリカーナ』を紹介しよう。本作は、16歳でデビューしてから世界の頂点に立ち続けるテイラー・スウィフトの活動の記録と、一人の女性として成長を遂げた姿を収めた1時間25分のドキュメンタリーだ。物語は、テイラーの少女時代の日記を読み返すシーンから始まる。親からアコースティックギターをプレゼントされた時の様子、スタジオでプロデューサーとの何気ないやり取りの中からヒット曲が生まれる瞬間、プライベートのパジャマ姿までが収められている。グラミー賞で最も栄誉ある「年間最優秀アルバム賞」を最年少で受賞するなどアーティストとしての実力も確かで、さらにモデル級のスタイルと愛らしいキャラクターで多くのファンを生んだ。スター街道を真っ直ぐに突き進んでいく彼女だが、アイコンとして消費され続けられること、SNSではヘイタ―から届く心無い言葉に精神的にも追い詰められ、摂食障害を患った過去のことなども赤裸々に打ち明けている。表に出る仕事は、常に評価が付き物だ。擦り切れるまで努力し続ける彼女の姿に泣けてくるのだが、不思議と同時に強さも感じられる。本当にかっこいい。
 

また、これまで押し殺してきた気持ちを表現し、一人の女性として成長していく姿にも注目したい。これまでテイラーは、中立的な発言に徹底し、皆から愛される「グッド・ガール」の象徴を保守してきた。しかし、2018年のアメリカ中間選挙で、これまでタブーとされてきた政治問題に言及する。若者に選挙に行くように呼びかけたのだ。マネージメント側や、彼女の父親から「ツアーの動員数が半分になる」と沈黙を破ることに反対されるのだが、それでもテイラーは、女性やLGBTQといったマイノリティの権利を守るために、「もう我慢はできない、正しい行為をする」と主張。Instagramに投稿する緊張の瞬間も映像に収められている。結果として、その勇気ある行動により24時間で有権者登録数は爆増したのだった。また、テイラーは性的暴行被害にも遭っている。人としての尊厳を踏みにじられた経験を彼女の言葉で語った。訴訟でテイラーが求めた賠償金は1ドル。まさに正義のための裁判だった。
 

私が住むアメリカは移民の国。広大な土地に、多国籍・多人種が共存し、州ごとに法律が違う。「〇〇についてアメリカではどうなの?」という質問に対して、「アメリカ」という主語が大きすぎていつも回答に困るくらい考え方や価値観が多様だ。世界をリードする国家アメリカは、残念ながら、今、大きく分断され、なかなかその深い溝が埋まらない。そんな時代を共に生き抜くミレニアル世代の代表とも言えるテイラーが、リスクを拒まずアクションを起こしたことにとても感動した。自身の声を表現できるメディアはたくさんある。何かを発信し、世論に影響を与え、人々の行動が変わる。ティーンアイドルだと思っていたテイラーに教えてもらうなんて、それほど時はたち、大人になっていることを実感する。
 

コロナ騒動に話を戻そう。世界中の政府が厳戒態勢で、無責任な行動を取らないように呼びかけている中、SNSで流れてくる情報を見ていると、日本では外出している人がやや多い印象だ。私個人としては、これから社会を支えるティーンに第二外国語を習得すること、海外に出て国際教養を身につけること、グローバル目線でファクトはどこでメディアの何がおかしいのか判断する力を育てることを伝えていきたい。COVID-19に関しては、若者は重症化するリスクが低いといわれているが、何よりも私達が守るべきなのは、リスクを抱えた人や高齢者だ。どう考えても命は命だから。そして、世界のファクトを映し出し、グローバル目線を養うツールとして、2019年ベストセラーになった書籍「FACTFULNESS」を一緒にお薦めしよう。世界で何が起きているのか、ニュースを読み解く力を鍛えられる。内容もすごく面白い。
 

最後に、ドキュメンタリーの中で、テイラーはこんなことを言う。
 

「ピンクの服を着ながら、政治の話がしたいわ。」
 

これからはこんなリーダーがいてもおかしくない。
 

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Written by ゲイラー世羅
 

ゲイラー・せいら●日本映像翻訳アカデミーロサンゼルス校の受講生・修了生サポート部門リーダー。
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