【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #11
ガンプラと映像翻訳●斉藤良太(管理部門スタッフ)
80年代の初頭、全国の小中学生は『機動戦士ガンダム』に夢中だった。物語の中で活躍する様々なモビルスーツ(ロボット)のプラモデル、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)が続々と発売され、爆発的な人気のために全国的に品薄になっていた。ガンプラを買うため、週末の玩具店に早朝から並んだことのある人も多くいる事だろう。
私の地元・埼玉の片田舎も、子どもたちはガンプラに熱狂し、店では完成品の出来を競うコンテストが定期的に開催されていた。入賞者には高額シリーズのガンプラが与えられていた。幼かった自分にはガンプラ作成のテクニックもノウハウも財力も無く、ショーウインドウに飾られた、年上たちが作った見事な作品を羨望のまなざしで見るしかなかった。当時のガンプラは何も手を加えずにただ作成すると、オリジナルの成型色1色の、プラスチック感丸出しの、なんとも味気ない物が完成するだけだった。箱絵のように作るには、パーツを丁寧に切り離し、ヤスリで整え、合せ目を接着剤やパテで塞ぎ、色を塗らないといけない。塗料やさまざまなツールを購入し、それらを使いこなすためのノウハウやテクニックが必要だった。ガンプラは大好きだったが、満足に完成させることができない「少し苦い思い出」もたくさんある。
成長するにつれて別のものに興味が移り、次第にガンプラから離れて数十年が過ぎた。
最近、ガンダムブーム時に幼少期を過ごした年代がガンプラ作りに戻ってきているという。私も、“ガンプラ戻り組”のひとりだ。
通販サイトを見ていると「ウン十年ぶりにガンプラを作りました」のようなレビューが目につく。「過去と比較してクオリティーが上がった」、「子どもの頃売られていなかった種類がついに買えた」等のコメントにまじり、「ただ組み立てるだけでカッコいいガンプラが出来る!」。
近年のガンプラは、組み立てパーツが色分けされていて設計図通りにただ「組み立てるだけ」でテレビの中で動いていたカッコいいモビルスーツの縮小版が目の前に現れるのだ。私のような不器用でも確実にカッコいいと思えるものが出来る。これは「少し苦い思い出」を持つ者たちほど感動を覚えるだろう。
コロナ禍対策に大きな成果を上げている、台湾のオードリー・タンIT担当大臣は「誰も置き去りにしない」社会の実現を主張している。例えば、IT技術の進化は詳しい者や若者だけでなく、高齢者を含む全ての人々にも等しく恩恵があることを目指さなければならない。これをガンプラのいまに例えてみたい。現役のプラモデル上級者だけでなく、仕事と家庭を持ちながら、ささやかな自由時間しか持てないユーザーが、簡単なツールを用意するだけですぐに良いものを作れること。ガンダムの世界観を堪能できること――。このように重ねてしまうのは大げさだろうか? “当時の子どもたち”を置き去りにしない社会の実現だと思う。
ところで、映像翻訳はまさに「誰も置き去りにしない」社会の実現と密接なものだと感じている。メディアと視聴者の間にある様々な壁(言葉、文化――)を越えて全ての人に等しくコンテンツを届け、その皆が「少し苦い思い出」を味わうことなく楽しむための、橋渡しをする。映像を楽しむ全ての視聴者に向けて「誰も置き去りにしない」という事が実に明快に現れる技術ではないか。
コロナ禍における巣ごもり需要。過去の映像作品を見る人が増え、映像翻訳の需要が高まった。ガンプラと映像翻訳という全く別世界のものに「誰も置き去りにしない」という共通項を感じ、“誰もが苦い思い出を持つことなく作品を楽しむこと”が増える未来を考えると、ワクワクする。
—————————————————————————————–
Written by 斉藤良太
さいとう・りょうた●日本映像翻訳アカデミー・管理部門スタッフ。日英映像翻訳科修了生。
—————————————————————————————–
「Fizzy!!!!! JUICE」は月に1回、SNSで発信される、“言葉のプロ”を目指す人のための読み物。JVTAスタッフによる、示唆に富んだ内容が魅力です。一つひとつの泡は小さいけど、たくさん集まったらパンチの効いた飲み物に。Fizzy! なJUICEを召し上がれ!
・バックナンバーは▶こちら
・ブログ一覧は▶こちら
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◆【入学をご検討中の方対象】
映像翻訳のことが詳しくわかる無料リモートイベントへ!※英語力不問
※詳細・お申し込みはこちら