【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #15
トライアル●先崎 進(MTC映像翻訳ディレクター/講師)
トライアルとは何だろう。私にとって、それはまさに「試練」であった。なぜ合格できない…? 何がよくないのだろう? 悔しくてたまらない。合格していく人たちが妬ましかった。努力が実った同期生を祝福したい、でも心の中ではそれを手放しに喜べない自分がいる。浅ましい自分が嫌になる。トライアルに落ちた金曜の夜は、私のプライドはずたずたに切り裂かれ、鬱屈した自問自答がぐるぐると頭の中を何度も巡り、次の日の明け方まで眠つけなかった。
そんな日はチャップリンの「街の灯(City Lights)」を見て泣いた。「いつかきっと報われる日が来る」と信じながら。流れ落ちる涙には暗く淀んだ気持ちを洗い流してくれる不思議な力があった。
毎回何の準備もなしに闇雲に戦いに臨んでも、玉砕してしまうのは目に見えている。私は自分なりにトライアルに“勝つための戦略”を立てることにした。大量の映画、ドキュメンタリー、ドラマを見てプロが作った一般的な字幕がどのような要素からできているかを徹底的に分析した。まずは第一線のプロたちが作っている字幕のクオリティを理解しなければ、プロデビューして同じ土俵には立つことはできないと考えたからである。
そこで得られた知見から、過去のトライアルで「アマチュアの自分」が作った字幕をすべて見直し、「プロ仕様」の字幕に仕上げるべくリライトをした。課題であんなに必死になって作っていた訳文も、時間が少し経って見直してみると「なぜこんな字幕を作った?」と思えるほど、字幕の見方が変わっていた。
私が思うに、映像翻訳に一発大逆転はない。訳文づくりの秘訣が、ある日突然わかるようになって上手くなることはない。トライアル合格は途方もない高みにあるように感じるが、頂上にたどり着くために必要なのは、小さな努力と準備の積み重ねなのだ。
過去の課題やトライアルは、サンプル訳だけ見てやりっ放しになっていないだろうか。講師から勧められた本を読んだだろうか。過去問を何度も解き直して、傾向を掴みポイントを整理して、対策を立てているだろうか。スポーツ選手や演奏家であれば、誰かから教わっただけで練習もせずにプロになれる人は、私はいないと思う。映像翻訳だって同じだ。
積み重ねた努力の向こうにはすばらしい世界が広がっている。諦めずに挑み続けてほしい。
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Written by 先崎 進
せんざき・すすむ●メディア・トランスレーション・センター(MTC)ディレクター。主にドキュメンタリー案件の受発注を担当する。主な映画作品は『ソニータ』『アレッポ 最後の男たち』など。
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