【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #24 「問い」●岩崎悠理(翻訳事業推進部)
「ネコ派かイヌ派か?」これを聞かれるといつも回答に困る。どっちもそれなりに好きではあるが、とりわけ一方に強い思い入れがあるわけでもない。その場で思いついた方を答えるものの、なんだか釈然としない。なぜなら、「ネコ派かイヌ派か?」と問われれば、たとえ中立の立場の人でも、両方とも苦手な人でも、どちらか一方を選ばざるを得ないように思うからだ。つまり「問い」が悪い。
物事を二つのカテゴリーに分けて、結論を導く思考法を「二分法」というらしい。「AかBか」「良いか悪いか」「いるかいらないか」。こういった問いは、物事を整理したりスピーディーに判断を下したりするのに役立つ。曖昧なところがないから回答も楽だ。「あなたにとってネコとは何か?」と聞かれるよりも「ネコ派かイヌ派か?」と聞かれた方が答えやすいのは想像がつくだろう。
一方、この方法では物事に白黒はっきりつけてグレーゾーンを切り捨てるため、不正確な結論に至ることがある。皆を強引にネコ派かイヌ派に二分割すれば、本来「ネコ好き」でない人でも「ネコ派」に分類されるかもしれない。さらに、この手の問いは二極思考を生む危険もある。「敵か味方か」「保守かリベラルか」「悪いのはA国かB国か」など。「問い」の設定が不適切だと、「答え」もピント外れになってしまうから注意が必要だ。
翻訳においても、どのような「問い」を立てるかは重要だろう。直感的に訳が「降りてくる」という人でない限り、訳文を考える上で自問自答のプロセスを踏んでいるはずだからだ。そしてその時に引き出せる「問い」の質や量が豊富なほどより良い訳が浮かびやすくなるのではないかと思う。私はそのレパートリーが少ない上に、せっかちなためすぐ結論に飛びつこうとして痛い目にあうことが多い。「自分の訳が“正しい”か“正しくない“か?」と、同じような思考のループに陥ってしまうのだ。
JVTAの授業では「この場面では何が言いたいのか?」「話者の気持ちは?」「前後の流れは?」などと講師が丁寧な問いをたくさん投げてくれる。それがヒントになり、思考の堂々巡りの状態から抜け出せる感覚もあった。コースを修了した今、講師やクラスメートからヒントを得る機会も減った。最近は質問をリストに書き溜めるなどして、凝り固まった思考グセを地道に矯正しようとしている。効果のほどはまだわからないが、脳の老化防止もかねてコツコツと続けていこうと思う。
これを読む人の中にも、勉強や仕事などで行き詰まりを感じている人がいるかもしれない。そんなときは少し視点を変えて、自分の「問い」を見直してみるのはいかがだろうか?
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Written by 岩崎悠理
いわさき・ゆうり●日本映像翻訳アカデミー・翻訳事業推進部スタッフ。英日映像翻訳科修了生。
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