【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #28客観的な視点●桜井徹二(学校教育部門)
「受講生の皆さんによく聞かれる質問ランキング」みたいなものがあったとしたら、間違いなく上位に入るのが「自分の翻訳原稿を客観的に見直す方法は?」という質問だ。だが、よくある質問の中でもこれは特に難易度が高い。具体的なテクニックというよりは感覚的な面が多分にあるからで、その感覚を説明することもなかなか難しい。だが先日、「その感覚に似ているかも」と感じた瞬間があったので紹介したい。
2~3週間ほど前、国内出張のために久しぶりに飛行機に乗った。出発は羽田空港からだった。主要な空港というのはどこも広々としていて、隅々まで洗練されている。もちろん羽田空港も例外ではなくて、天井はどこまでも高く、あらゆるものがぴかぴかに磨き込まれ、すべてがシステマチックに動いていた。
リムジンバスが予定よりかなり早く着いて出発便までは1時間半近くあったので、どこかの店に入って仕事を片付けつつ一服しようと考えた。でも空港内をしばらく歩き回ったり、いくつかの店をのぞいてみたりしながらふと思った。
なんだかおれって、場違いじゃないか?
卑屈になっているとか自意識過剰だといえばそれまでかもしれない。でもそういうのとも違う気がする。より正確に言えば、「場違い」というのともちょっと違う。空港の高い天井から俯瞰で見下ろしている映像が脳裏をよぎって、そのあまりにも巨大でシミひとつない場所と、そこをとぼとぼと歩いている自分との対比がどことなくシュールでアンバランスだな、と感じるのだ。
思えば、同じように慣れない場所にいたり普段と違う行動をしていたりする時に、その状況を冷静に見ている自分の視線を感じることがある。ちょっと距離が離れているところからの、淡々とした視線だ。
それが、自分で翻訳した原稿を客観的に見直す感覚に近いように思う。チェックするというよりも、視点を高い天井からのカメラにぱちんと切り替えて、全体像を広く捉えて見るような感覚。的確に伝えられているかどうかは分からないが、客観的な見直し方に悩んでいる人はそんな視線を意識しながら原稿を見直してみてはどうだろうか。
それはそうと、空港を利用する時にはいつも高揚感とともに一抹の不安も覚える。なぜなんだろう? 一種のホームシックか、それとも非日常な場所へ旅立つ不安だろうか? …などと考えてみたが、結局思い当たったのは「遅刻や忘れ物への不安」だった(そうしたら飛行機に乗れないから)。心配事というのは小学生からさほど進化しないものなのかもしれない。
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Written by 桜井徹二
日本映像翻訳アカデミー・学校教育部門
さくらい・てつじ●JVTAの映像翻訳ディレクターとして、MTVやBBCのドラマ、ドキュメンタリー、リアリティ番組やMOOC(大規模オンライン公開講座)用字幕などを手がける。本科のほか、明星大学、青山学院大学などの教育機関でも講師を務める。『字幕翻訳とは何か 1枚の字幕に込められた技能と理論』(小社刊)の執筆にも参加。
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