【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #31 Uncle Paul●斉藤良太(管理部門スタッフ)
先月、ネットニュースで何気なく見つけた記事に考えさせられる事があった。ジョン・レノンの長男ジュリアン・レノンが、ある空港のラウンジで偶然ポール・マッカートニーと遭遇し、その様子をジュリアン自らツイッターに投稿したという内容だ。その記事の中ではビートルズの名曲「Hey Jude」へオマージュを捧げた曲をジュリアンが今年リリースしたばかりだと書かれており、さらにジュリアンがツイッターに載せた写真では、その曲が納められたアルバム画像が映ったスマホの画面にポールが指をさしていた。ビートルズの熱心なファンでもない自分にとっては、この記事に対し強く感じる事も何か感慨に耽る事もなく、ネットのエンタメニュースの一つとして受け流すところだった。その記事のコメントを読むまでは。
たった数件だけ投稿されていたコメント欄の最初のコメントの内容に目が止まった。それはジュリアンのツイッター原文に書かれている「Uncle Paul」の「Uncle」が、記事に掲載されていたツイッター投稿内容の日本語訳に反映されていないことへの批判だった。恐らくコメント主はビートルズのファンであろう。コメントによるとポールはジュリアンが幼いころから遊んでくれ、父親のジョンがオノ・ヨーコと浮気をし当時5歳のジュリアンと母のシンシアから離れて意気消沈していた時には気にかけてくれたやさしい「ポールおじさん」であり、その「おじさん」との久々の遭遇だったことが感動をさせるのだと。ビートルズのエピソードを知らない大半の人は今回の記事を読んでも最初の自分と同じく、無数にあるエンタメニュースの一つとしてスルーをするだろう。だだ、このコメントを含めたこの記事の内容がなぜか心に引っかかった。
ジュリアンとポールの関係について少し調べてみることにした。1968年にジョンが浮気で母子から離れて行った時にポールはジュリアンの元を訪れ、帰宅途中の車の中でジュリアンを慰めるために「Hey Jude」を作ったというのだ。そこで初めて前述の記事になぜ「Hey Jude」の件があえて触れられていたのか合点が行った。さらにレコーディングや宣伝の際のエピソードが数多くある事を知り、同曲のミュージックビデオを見ると、まだ幼い息子を慰めるために第3者のポールが作った曲をジョンはどんな気持ちで演奏したのだろうと、さまざまな想像が頭に浮かんだ。そしてこの事を通じ、多くの名曲を産んだ偉大なビートルズという遠い伝説の存在が、さまざまな葛藤や衝突をしながら活動していた生身の「The Beatles」としてよりリアルに感じられる様になったのだ。
翻訳にはさまざまな制限がある。特に映像翻訳には字数制限があり訳出する内容を精査しなければならない。記事は映像翻訳ではなかったが、多くの目に触れる機会があるコンテンツにおいて翻訳者はたったワンワードであってもそれを受け取る側への大きな影響がある事を忘れてはならないと再認識した。
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Written by 斉藤良太
さいとう・りょうた●日本映像翻訳アカデミー・管理部門スタッフ。日英映像翻訳科修了生。
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