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【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #33 シェイクスピア物語~児童書が導いてくれたこと●池田明子(広報/バリアフリー講座運営)

【スタッフコラム】Fizzy!!!!! JUICE #33 シェイクスピア物語~児童書が導いてくれたこと●池田明子(広報/バリアフリー講座運営)

シェイクスピアはイギリス文学の巨匠だ。

しかし、一般的にはどのくらいの人がその戯曲を読んだことがあるだろうか?

私が初めて彼の作品に触れたきっかけは、10代の頃に読んだ『シェイクスピア物語』(新潮文庫 松本 恵子訳)だった。これは、オリジナルの戯曲を基に、メアリー・ラムとチャールズ・ラムの姉弟が子どもたちにも分かりやすいように、物語のエッセンスを抜き出して散文として短編集の形にまとめた作品だ。異国情緒あふれるドラマティックな展開と緻密な登場人物の描写に一気に魅きこまれてしまった。

戯曲(日本語)で初めて読んだのは高校生の時だった。卒業研究のテーマに四大悲劇(『リア王』『オセロー」『ハムレット」『マクベス」)と『ロミオとジュリエット』の考察を選んだ時のこと、担当の英語講師から小田島雄志氏の翻訳版を薦められて図書室で全集を手にした。小田島氏は、『ハムレット』の有名なセリフに「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ。』という名訳をした方だと講師から聞いたことを覚えている。シェイクスピア(1564年~1616年)の時代は、日本でいうと戦国から江戸時代でありいわゆる古典だ。原文も古い表現が多く、翻訳版でも難しい箇所も多かった記憶がある。それでも、人物のキャラクターを掘り下げたり、人間関係の相関図を作ったりして、高校生なりの考察をなんとかレポートにまとめた(まだPCなどない時代、すべて手書きで作成)。20代でロンドンに語学留学した時には、シェイクスピアの生誕の地、ストラトフォード・アポン・エイボンにも出かけた。ラム姉弟が執筆した『シェイクスピア物語』がこの旅へと導いてくれたのだ。シェイクスピアの多くの名作が、世界中で特に熱烈な芝居好きではない人にも幅広く愛されるようになった一因に、この本が大きく貢献しているのは間違いないだろう。

JVTA修了生の小松原宏子さんは、多くの児童書の執筆や翻訳、編訳に携わる第一人者だ。

新訳版『不思議の国のアリス&鏡の国のアリス』(静山社)、絵本「ひかりではっけん!シリーズ」(くもん出版)の翻訳や、『あしながおじさん』『若草物語』(共に学研教育出版※現Gakken)など名作の編訳に加え、『ホテルやまのなか小学校』(PHP研究所)「青空小学校いろいろ委員会シリーズ」(静山社)などのオリジナルの執筆など幅広く活躍している。小松原さんには先日JVTAで行ったセミナーで、世界的名作『不思議の国のアリス&鏡の国のアリス』の翻訳秘話を語っていただいた。誰もが知る往年の名作を訳す難しさや今の子どもたちも楽しめる言葉選びなどが面白く、児童書をまた読んでみたくなった。私も子どものころ、地元の図書館の児童室に足繫く通っており、世界の偉人の本に感動したり、シャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパン、「ナルニア国物語」などのシリーズに夢中になったりしていたからだ。

このご縁を機に久しぶりに児童書売り場に行ってみた。そこで手に取ったのが、児童書版の『シェイクスピア物語』(岩波少年文庫546 矢川澄子訳)。これは以前文庫本で読んだ“全訳”ではなく、“編訳”というもので物語の要素は網羅しつつ、児童書としてさらにコンパクトにまとめられている。「中学生以上」という対象だが、大人が読んでも分かりやすく、久しぶりにシェイクスピアの世界を堪能することができた。

実は今回、『シェイクスピア物語』を3つの本で同時に読んでみた。洋書の『TALES FROM SHAKESPEARE』(Puffin Classics)、その全訳の文庫本、そして児童書。段落ごとに3つを並べて読み進めていくと、それぞれの工夫が明確になり、興味深い。物語の伏線を残しながら子どもにも分かりやすくまとめられた児童書は、字数制限の中で言葉を紡ぐ字幕にも通じるものがある。世界の名作が時代を超えて愛される背景には、こうした翻訳者の功績が大きいのだと改めて実感した。

小松原さんはいう。「児童書の翻訳は子どもにも分かるように書く必要があり、決して大人向けの翻訳より易しいものではない。」と。いくつもの時代を経た名作には、いくつもの翻訳版があり、そのときどきで複数の翻訳者が先人の知恵を踏襲しながら、その時代に合った今の表現を作るために工夫を重ねてきた歴史がある。子どもの頃に好きだったお話を児童書や翻訳本で大人になった今読むことは、その貴重な足跡をたどるという意味でも大きな学びとなる。私も以前、『星の王子さま』を洋書と内藤 濯氏の訳、池澤夏樹氏の訳の3つを同時に読んでみたが、訳し方で作品全体の印象がかなり変わることを肌で感じることができた。ちなみに、『シェイクスピア物語』は短編集で、児童書も複数の訳本があるので、翻訳者を目指す皆さんにも読み比べをおすすめしたい。そして児童書が担ってきた大切な役割をぜひ、再認識してほしいと願っている。

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Written by 池田明子

いけだ・あきこ●日本映像翻訳アカデミー・コーポレートコミュニケーション部門所属。English Clock、英日映像翻訳科を受講後、JVTAスタッフになる。“JVTA昭和歌謡部”のメンバーとして学校内で昭和の歌の魅力を密かに発信中。
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