Tipping Point Returns Vol.2 戦う相手を間違えるな!
戦う相手とは「望んだ結果を出すために全力で向き合うべき対象」のこと。スポーツの試合ならもちろん相手チーム、仕事なら目の前の課題や説得したい人。今、誰もが何かと戦っているでしょう。
「俺は何と戦っているんだ…」。
私が夢中になっているサッカー漫画、週刊『ビッグコミックスピリッツ』で連載中の『アオアシ』で登場人物が試合中につぶやくセリフです。フィールドに立つサッカー選手が戦うのは相手チームに決まっているさ…いや、そうとは限らないぞ、と思わせる状況が描かれています。
エリートが集まるクラブチーム、そのなかでも高い技能を持つ桐木(きりき)は、自分も選ばれると高を括っていた世界遠征選抜メンバーから外されます。それを根に持ったまま、残留組と新人から成る混成チームの一員として国内リーグの試合に臨みました。精神状態は最悪で、何より彼をイラつかせたのは自分のスピードや予測に反応できない(と彼が決めつけている)チームメイトたちでした。
彼は相手チームではなく、自分の足を引っ張っていると感じているチームメイトと戦っていたのです。また、自分を遠征から外した監督やコーチとも戦っていました。だからもちろん望んだ結果が出ない――。
試合の真っただ中にいる一流のサッカー選手でさえ戦う相手を間違えることがある。これが真実なら、私たちの近くにも「戦う相手を間違えるという落とし穴」が潜んでいると考えたほうがいい。
何かを成そうとして上手くいかない時、(そんな話は聞いてなかった。もともと条件が悪かった。仲間に託したのにちゃんとやらなかった…)などなど、自分を正当化する言い訳が即座に頭に浮かんでくることはありませんか。他人や環境の欠陥を探して上手くいかないのをそのせいにする。自分の境遇ではそれを成すのは無理だと納得できる理由を探す。誰かを恨み、呪い、仕返しする方法を考え、そのうちに心や身体に不調をきたす…。そうなる原因はたいがいの場合、戦う相手を間違えていることにあるのです。
そんな時は一度深呼吸をして「自分は何と戦おうとしているんだ?」と自問してください。もしかしたら、それは今かもしれませんよ。
(なにそれ、自分に限ってそんなことはない)と言われそうですが、私自身、無駄な戦いに時間を浪費した経験が何度もあります。今でも油断があれば落とし穴にはまるかもしれません。
戦うべき相手を間違えない人は、何かにぶつかると即座に「自らを俯瞰する、反省し謝罪する、改善する、代案を考えて選ぶ、創意工夫する、前に進む」というアクションを選び取ります。強く意識さえすれば、誰にでもできることです。
さて、『アオアシ』はどうなったでしょう。
桐木のレベルでプレーできないチームメイトが、実は誰一人として桐木を疑わず、それどころかひたむきなプレーで彼にパスを送ろうとする姿に、桐木は(何かがおかしい)と感じ始めます。そこで冒頭のセリフをつぶやくのです。
一方、その状況を見守る監督は「エゴのかたちを変えろ、桐木」と願う。自分がナンバー1、自分が主役だというエゴは捨てなくていい。戦う相手をチームメイトと共有できたとしても、プレーのレベルを下げて仲間に合わせるようでは二流止まり。妥協することなく自分のレベルを貫き、(俺がこの試合でチームメイトのレベルを引き上げてやる。俺にはそれができる!) と信じ切ることこそが一流のエゴだというのです。ニッポンの漫画はやっぱり奥が深い。
物事が上手く進まず、その原因だと決めつけた人や自分の境遇への恨み、言い訳で頭が覆いつくされそうになった時、このセリフを思い出してください。
「俺(私)は今、何と戦っているんだ?」。
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Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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