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Tipping Point Returns Vol.25 ■「社会を思う人になる」が先、「一人前になる」はあと

Tipping Point Returns Vol.25 ■「社会を思う人になる」が先、「一人前になる」はあと

「社会を思う人になる」が先、「一人前になる」はあと
 

そう言われたら、皆さんはどう感じるだろうか。「その通り」と素直に受け入れられる人はいるだろう。「いやいや順序が逆。自分の面倒を見ることができない人が社会の役に立てるわけがない」と反論が頭に浮かんだ人もいるだろう。日本で60年近く暮らしてきた私の感覚では「一人前になるのが先」と信じる人が圧倒的多数派だ。その割合は世代が上がるほど高くなる。
 

1990年代前半、20代半ばで会社を辞めて出版業界や広告業界を飛び回っていた頃の話。広告業界で名の知れたある人物と食事をする機会を得た。その人は50代、大先輩だ。最初は緊張していたが、家族は? 大学では何をしてたの?などと聞かれるようになると気持ちが楽になり、私も本音が口をつくようになった。
 

「これからどんな仕事をしたい?」
「具体的なことは何も決まっていませんが、故郷の街の発展に役立つような仕事もやってみたいです」
「ほぉ、百年早いね。ここ(東京)で一旗揚げられない人間が、地元の街に貢献するなんて無理。まずは目の前の小さな仕事で一人前になることを考えろ」
 

この言葉は今も私の心の傷となり残っている。目の前の仕事で一人前とは言えないやつが故郷の街、つまり他人や社会のことを気にするのはちゃんちゃらおかしいと言うのだ。それからというもの、世の中や社会、自分以外の人たちの幸せのことが頭に浮かぶたびにその言葉がよみがえり、(あぁ、今の半人前の自分にはそんなことを願い、行動する資格はないのだ)と考えるようになった。そう、トラウマだ。私はこれを「一人前至上主義者による言葉の暴力」と定義している。皆さんのなかにも似たような経験をした人はいるのではないだろうか。
 

こんな昔話をしたのはなぜか。結論を言おう。目の前の仕事で一人前にならないと他人や社会には貢献できない――そんな考えは時代遅れの妄想だ。今とこれからを生きる私たちは「一人前至上主義者」の言葉に耳を傾けてはいけない。私のようなトラウマを、人から与えられる必要はないし、人に与えてもいけない。
 

道半ばでも、道に迷っていても、自分は半人前だと自覚していたとしても、人と社会のことを思い行動する自分を誉めていい。そんな人に出会ったら、その人の年齢や社会的な立場に関係なく共感し、リスペクトすべきだ。理想を語っているのではない。それが新しい時代に求められる「成功に向かう手順」なのだ。
 

幸いなことに、私は「一人前至上主義」に染まる一歩手前で踏みとどまることができた。おそらく大学の恩師や読んだ本から学んだことが助けてくれたのだと思う。だから、JVTAがまだ数人の社員しかいない超マイクロ企業であった頃でも「難民映画祭」やバリアフリー映画祭、大学や高校教育への無償協力事業には躊躇がなかった。
 

「財務状況もおぼつかないのにボランティアや寄付なんて本末転倒じゃないか」、「何を格好つけてんの?」。実際にそう言われたことがあるし、今もなくなったわけではない。今年、ウクライナからの避難学生たちと取り組んだ『J-Anime Stream for Ukraine』や、SDGsに関連する海外ドキュメンタリー作品の上映を行った『WATCH 2022 WINTER』に対して、そんなような皮肉を言う人は今もいる。「それってビジネスとして成立してるの? 小さな会社にはもっとすべきことがあるんじゃない?」。
 

イベントの成果を事業収支の黒字とするならば、「一人前至上主義」に取りつかれた人の眼に主催者である私たちは半人前に映るだろう。支援やボランティアというものは財務も事業も安定している一人前の会社が余力でやるものだ、と。
 

しかし、私は経営者としても一人の市民としても、自分たちの判断と行動が間違っているとは思わない。「一人前至上主義」に取りつかれた人の言葉には耳を貸さない。なぜならば、仕事で真の成功を目指すためには『「社会を思う人になる」が先、「一人前になる」はあと』が正しいと信じて疑わないからだ。人や社会を思い、行動できる人や会社だからこそ、人や社会は一人前になるよう導いてくれる。そう考えるほうがスッキリする。
 

キャリアパス、職能の獲得、収入の安定……悩みは尽きず、自分はまだまだ半人前だと落ち込むことはあるだろう。まずは自分を何とかしろ、人や社会のことなんて考えるなと圧力がかかることもあるだろう。でも、こう信じてほしい。それは逆だ。人や社会のことを思えるあなただからこそ評価され、招かれ、さらなる成長の機会が訪れる――。
 

「まずは自分が一人前になるために」と考えて努力する姿は、咎められる筋合いのものではないが見とれるような魅力もない。しかし、たとえ未熟であっても、人や社会のことを思う気持ちを胸に一人前になろうと学び、働く人の姿は美しい。
 

幸い世界のビジネス・トレンドはこの方向に流れ始めている。どんなに稼ぐ力がある会社でも、社会や環境に配慮がないなら退場を宣告される。個人も同じだ。評価されるには経験や資格、実績だけでは足りない。ボランティアなどの具体的な活動もそうだが、それ以前のところで「人や社会を思う人であるか」が問われる。そうであれば仕事はまだ半人前でも評価される。
 

私はあと6年ほどで高齢者の仲間入りをするが、この考え方を絶対に変えない。「人や社会を思う人」を評価し、応援したい。同時に自らもそう見なされたい。
 

この話、皆さんはどう思われるだろうか。異論や反論も大歓迎。ぜひコメントをいただきたい。
 

2023年が、皆さんにとって大きな飛躍の年となりますように。
 

◆J-Anime Stream for Ukraine
http://stream.jvtacademy.com/
 

◆WATCH 2022 WINTER
http://www.watch-sdgs.com/
 

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Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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Tipping Point Returnsのバックナンバーはコチラ
https://www.jvta.net/blog/tipping-point/returns/
2002-2012年「Tipping Point」のバックナンバーの一部はコチラで読めます↓
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