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Tipping Point Returns Vol.27 ■「てんまるの世界」を旅しよう

Tipping Point Returns Vol.27 ■「てんまるの世界」を旅しよう

「てんまる」とは「、」と「。」。日本語の句読点のことだ。本、漫画、動画のテロップ、パソコンやモバイルで読む情報、街のサイン、店内……私たちは文字に包まれて生きている。そこで、こんな質問をしてみたい。

あなたは「てんまる」、特に文末の「まる」の意味をどのくらい感じ取れているだろうか?

例えば書籍なら「まる」があるのが当たり前と思っている人は、近くの本を手に取って表紙をじっくり見てほしい。タイトルに「まる」はある? 帯の宣伝文(コピー)には? そこが「。」があったり無かったりする世界だということがわかるだろう。

また、漫画好きは知っていると思うが、セリフの吹き出しに「まる」がある作品と無い作品がある。一般的には「まる」が無い印象が強いと思うが、実は、小学館の漫画には、ある。『犬夜叉』(小学館)の吹き出しには「。」があり、『進撃の巨人』(講談社)には無い。

小説はどうか。あるに決まっている? 「ケータイ小説」は無しが基本だということをご存知だろうか。(セリフなどを途中で区切る場合に使うこともある) JVTAが深く関わる動画の字幕は無しが絶対のルール? そうとも限らない。コマーシャルなどに用いる一部の動画に対して意図的に「。」を使うケースがある。街や店舗で目にするポスターやサイン、案内文を意識して見てみると「まる」があったり無かったりする。

つまり、「まる」の有無について100%従うべき決まりというものは存在しないのだ。

なぜあったり無かったりするか。理由は一つしかない。読み手に好印象を与え、理解を深めてもらうためだ。読みやすさ、わかりやすさを演出するためには、使うべきか、取るべきか。「まる」がある文と無い文には、文脈(コンテクスト)において差異が生じる場合もある。例えば、「若者は句読点が大嫌い。上から目線で命令されているみたいだから」という昨今の気運に従うか、無視するか。つまり、字幕翻訳のルールとはまったく異なる理由で「まる」を無しにするのが効果的なケースがあるということ。しかし、その風潮に対して「若者に迎合するな。大人は正々堂々と句読点を使え!」という声もある。(参考:PRESIDENT Online2022/9の記事『中高年は知らない…若者がLINEで句読点がついた文を心底嫌悪する本当の理由おじさんLINEと揶揄されても「だからなんだ?」と言い返すのが大人の仕事』)

「まる」があればメリハリが生まれる、意味の区切りを明確にする、メッセージを強く打ち出せる……。無ければ余韻が残る、読み手に呼びかける感じを演出できる、冷たい印象がない……。下手な説明を書き連ねるより、よほど雄弁だ。

結論はこうだ。
文章の質を高めたい、より強く、魅力的に伝えたいと思ったら、「まる」が必要か不要かについて徹底的に考えよ。なぜ付けたのか(取ったのか)の理由を明確にせよ。テンプレがそうだから、だいたいある(無い)から、そうしろと言われたから…その程度の理由で決めたのなら、AIが書くのと同じだ――。

英日映像翻訳本科の総合コース・Ⅱで私が受け持っている「フリーランスの働き方」についての授業では、プロ化に備えて一般的なレジュメに替わる「自己PRシート」を作成してもらう。提出の義務はないが、チェックを求められれば喜んで応じている。その時、真っ先に眼に飛び込んでくるのが「まる」の使い方だ。箇条書き風に整理した文が多くなるシート。「。」の有無に決まりはない。問題は「なぜ付けた(取った)のか」である。「まる」の使い方に意図を感じ取れたら、そのシートはほぼ合格。一方、統一性がなかったり、迷いが見えたりした場合には、赤入れで修正案を記す。字幕翻訳を学んだ人のシートからは「。」の有無に明確な意図が見える場合が多く、とてもうれしい。

そうした感性を磨くための‟練習帳”は、冒頭で記したように私たちの周りにあふれている。今眼にしている文には、なぜ「まる」がある(無い)のか。その推論が当たりでも外れでも、立ち止まって考えを深めたことは、自身が生み出すことばの品質を高める糧となる。

AIでは決して至らない「ことばのプロ」ならではのアウトプット。それは、そんな努力とこだわりから生まれるのだ。

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Tipping Point Returns by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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