Tipping Point Returns Vol.3 そのアドバイス、毒か? 薬か?
この春から新しいことにチャレンジする人にはこんなアドバイスをさせてください。
「その道のプロだから、その世界に長くいるからというだけの理由で、その人の言葉や組織の習わしを信じるな」。一つのことを長く続けている人や組織は優れている、何の疑いもなくそう信じてしまう人がいますが、それはとても危険です。
その道のプロや熟練者にもいろいろな人がいます。気持ちのよい話ではないかもしれませんが、誰もが新人や後輩を歓迎し、すくすくと育ってほしいと願っているとは限らないのです。私はこれまで、本音では新参者を疎んでいるのに、あからさまにそのように振る舞うのは格好悪いからか、耳に心地よい指導やアドバイスで一見良き先輩を演じる人をたくさん見てきました。そんな人間の言葉はもっともらしくは聞こえるが、実は意味がなかったり、新人の毒になったりしているケースすらあるのです。
ではどのようにして毒か良薬かを見分けるか? 指導やアドバイスをする先輩に、勇気をもって「そうするのはなぜですか?」と理由や根拠を尋ねてください。「あなたはどうしてこの仕事を選び、それによってこの社会とあなたは何を得ることになりますか?」と聞いてみるのです。恥ずかしいことではありません。とても大切なことです。新人であるということは、この質問を堂々と投げかけられる最大のチャンスでもあるのです。
新人が見習うべき指導やアドバイス(良薬)ができる人には二つの特長があります。一つ目は、変えてはいけない、変える必要がない信念を抱いていること。
なぜこの仕事をしているのですか? と聞かれて、そんな野暮なこと聞くなとか、生活のために決まっているとか、取って付けたような理屈しか出てこないような人は要注意です。その指導やアドバイスは間違えている可能性が高い。一方、良薬を処方できる先輩は、自らの仕事が社会に対してどんな意義をもっているのか、誰を幸せにするか、そうすることで自分はどうなりたいかをはっきりと胸に抱いています。だから一見唐突でこそばゆい質問でも、実は心の中で (おぉ、よくぞ聞いてくれた!)と喜んでいるはずです。
二つ目の特長は「改善を常としている」こと。改善は簡単そうに聞こえますが、人間は油断をすれば保守保身になびいてしまうもの。実はとっても難しいのです。だからこそ、改善に躊躇のない職業人を私は尊敬します。改善を常とする人は、いつも注意深く社会や顧客、仕事の仲間を見つめています。そしてそれらの変化に的確に対応すべく、時には大胆に進むべき方向を変え、手法を変え、振る舞い方を変えることを厭わない。それでも本人のなかには一貫した志があり、これまで積み上げてきたものは活かすぞという気概に溢れている。そういう人にとって新人の出現は想定内の変化であり、競合どころかむしろ自らの成長に欠かせない存在なのです。保身の概念がないので新人の参入は少しも怖くない。だから「一緒に楽しくやろうぜ! 困ったことがあったら言って!」と心から言えるのです。
信念は変えず、時代や環境に合わせてやり方を変えることに躊躇がない人。企業論で言えば「不動のミッションに則したビジョンを示し、バリューを更新し続ける会社」。世界のエクセレントカンパニーに共通する特長です。
皆さんがあらゆるシーンで良き指導やアドバイスに出会えることを、心から願っています。私を含めたJVTAのスタッフは、そのような存在として皆さんに寄り添えるよう、これからも努力を続けます。
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Tipping Point~My Favorite Movies~ by 新楽直樹(JVTAグループ代表)
学校代表・新楽直樹のコラム。映像翻訳者はもちろん、自立したプロフェッショナルはどうあるべきかを自身の経験から綴ります。気になる映画やテレビ番組、お薦めの本などについてのコメントも。ふと出会う小さな発見や気づきが、何かにつながって…。
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