これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第10回 “The Walking Dead”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第10回“The Walking Dead”
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社にその道の才人たちが集結し、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
「嘘だろ、ホラーに感動するか?」
実は映画・テレビドラマで唯一嫌いなジャンルがホラーだ。当然ゾンビも大嫌いなのだが、これは別格。5年前、たまたまスカパーで初期のエピソードを途中から観て絶句した。「嘘だろ、ホラーに感動するか?」 (ホラーファンの皆さん、“no offence”です)
アメリカ南部を舞台にした究極の人間ドラマ
リック・グライムズ(アンドリュー・リンカーン)は、ある日病院のベッドで目覚める。リックはアトランタに近い小さな町の保安官代理で、数カ月前に銃弾に倒れてから昏睡状態だったのだ。院内にはひと気がなく、駐車場にはおびただしい死体が散乱している。しかもゾンビ(作中では’ウォーカー’と呼ばれる)が跋扈(ばっこ)しているではないか! いったい何が起きたのか?
リックは家族を探してアトランタまで行くが、そこはすでにゾンビの巣窟と化していた。生肉を求めて徘徊するゾンビに噛まれると、誰もが数時間でゾンビ化する。リックは何人かの生存者と共に、からくもゾンビ・シティから脱出する。だが、どこへ行けばいいのか?
物語が進むに連れてリックが率いるグループにはチームワークが生まれ、ゾンビへの対処法も確立される。だがゾンビはいたる所に無数にいて、音に反応して近づいてくる。ちょっとした油断で誰かが死ぬ。その時責めを負うのはリックだ。保安官代理という職業ゆえにリーダーとして期待され、常に迅速で的確な判断を求められる。リックの孤独と苦悩は日ごとに深まり、家族に加えて守るべき市民への責任感から、精神的・肉体的に追い込まれていく。
いつしかリックのグループは、幾多の困難を乗り越えて疑似家族へと変貌していく。だがつかの間の休息はあっても、略奪、裏切り、妄想、それに他の武装グループとの対立にさらされている。つまり、生き残るための真の脅威はゾンビではなく人なのだ。“The Walking Dead”とは、恐怖で人間性を失った人間たちをも意味すると言えば、深読みし過ぎか?
やみくもにゾンビを殺しまくるだけではテレビシリーズとしては生き残れない。この作品は、極限状況に置かれた人間・家族の生と死を見つめつつ、ゾンビの人格論議まで踏み込み、人の尊厳とは何かを問いかける。絶望と希望を巧みに織りまぜて、生きるとはどういうことなのかを考えさせる。仲間への信頼と裏切りを交錯させて、人としての正しい行動を直視させる。アクションホラーの枠を超え、観る者にヒューマニティとリーダーシップを徹底的に問う究極の人間ドラマなのだ(勿論アクションホラーとしても特級品だ)。
“Ladies and gents, meet Mr. Daryl Dixon!”
主要キャラのダントツ一番人気は、タフで寡黙、それでいて繊細で優しい面も見せるボウガンの名手ダリル・ディクスンだ(ボウガンはゾンビを殺すのに最も適している)。ダリルを演じるノーマン・リーダスは本作で大ブレーク。元々は売れない画家だったが、カルバン・クラインのモデルで食いつないでいただけあってイケメンマッチョでカッコいい。
そのダリルの兄で、ゾンビ以上に凶暴なメルルを演じるのがマイケル・ルーカー。ホワイトトラッシュ(貧乏で粗野な白人)を演じさせるとこの人の右に出る者はいない。メルル・ディクソンの強烈な存在感と異様な生への執着には終始圧倒させられる。
他にもリックの妻ローリ(“Prison Break”のサラ・ウェイン・キャリーズ)、勇気ある韓国系アメリカ人青年グレン(スティーヴン・ユァン)、DVの被害者から真のファイターへと生まれ変わる美熟女キャロル!(メリッサ・マクブライド)、人徳者の獣医ハーシェル(スコット・ウィルソン)、そしてシーズン3から登場する独裁王国ウッドベリーの統治者である通称’ガバナー’(デビッド・モリシー)など、忘れ難いバイプレーヤーが続出する。
“A lot more zombies…!”
クリエーターのフランク・ダラボンは『ショーシャンクの空へ』、『グリーンマイル』の監督として名高い(いずれも原作はスティーブン・キング)。製作は傑作“Breaking Bad”を手掛けたAMC Networks。嬉しいことに、現在本作からのスピンオフシリーズ“Fear the Walking Dead”を撮影中とのこと。盆と正月が一緒に来るとはこのことか。
日本ではFOXチャンネルがシーズン1(2010年)から本国とほぼ同じタイミングで放映していて、シーズン6が10月から日米同時スタートだ。全米ケーブルテレビ史上最高の視聴率をたたき出した、この文字通り’臓腑をえぐられるような’(“gut-wrenching”)迫真のドラマを、ぜひ家族そろって堪能して欲しい。
<今月のおまけ> 「心に残るテレビドラマのテーマ」⑨ “Quantum Leap” (1989-1993)
(’アメリカの良心’とも言うべきヒューマン・SFドラマの傑作!)
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
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