これがイチ押し、アメリカン・ドラマ 第100回 “THE RECRUIT” +『100回記念特別付録』!
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系、ケーブル系各社に[…]
これがイチ押し、アメリカン・ドラマ
Written by Shuichiro Dobashi
第100回 “THE RECRUIT” +『100回記念特別付録』!
今、アメリカ発のテレビドラマが最高に熱い。民放系・ケーブル系に加えてストリーミング系が参戦、生き馬の目を抜く視聴率レースを日々繰り広げている。その結果、ジャンルが多岐に渡り、キャラクターが深く掘り下げられ、ストーリーが縦横無尽に展開する、とてつもなく面白いドラマが次々と誕生しているのだ。このコラムでは、そんな「勝ち組ドラマ」から厳選した、止められない作品群を紹介する。
熱血CIA弁護士のスパイアクション!
Netflixオリジナルの“The Recruit”は、筆者好みの軽快でノリのいい一作。
自分勝手でやんちゃで無鉄砲、だが頭脳明晰で楽天的で正義感が強くて根は優しいアドレナリン・ジャンキーの熱血CIA弁護士が大活躍する、愉快痛快なスパイアクション・ドラマなのだ!
※本稿末尾の『100回記念特別付録』も読んでね。
“I’m not a spy, I’m a lawyer!”
—ワシントンD.C.
オーウェン・ヘンドリックス(ノア・センティネオ)は24歳、2日前からCIA(米国中央情報局)で働き始めた。と言っても、オーウェンはスパイでも暗殺者でも分析官でもない。専門知識もなく、初歩の諜報訓練さえ受けていない法務部の弁護士だ。
彼は元カノの弁護士ハンナ(ファイヴェル・スチュワート)、財務省勤務の親友テレンス(ダニエル・クインシー・アノー)と、アパートの一室を共有している。
オーウェンの父親はアフガニスタンで戦死し、母親はそのショックで精神的に参ってしまった。オーウェンは弁護士資格を取ると、CIAに入局した。何か強い刺激が欲しかったのだ。
CIAには毎年何百通もの脅迫状(”graymail”)が届く。勘のいいオーウェンは、信憑性の高そうな一通に目を付けた。フェニックスの刑務所で服役中のマックス・メラッゼ(ローラ・ハドック)が、極秘の符丁や暗号名を使っていたからだ。
オーウェンはマックスと面会する。
マックスはベラルーシ生まれの妖艶な殺人犯だった。そして、自分を即時釈放しないと所有している機密文書をメディアにバラまくという。彼女はかつてCIAの凄腕工作員で、汚れた極秘作戦にかかわっていた。
その内容が表ざたになれば、CIAは壊滅的な被害を受ける。
上層部は渋々マックスを釈放した。さらに、彼女を工作員として復帰させようと画策する。
ところがオーウェンは何故かマックスに気に入られてしまい、引き続きオペレーションの主要メンバーとして残る羽目になった。
オーウェンは、やがて迷路のようなエスピオナージの世界に翻弄されていく。美貌のサイコパス系元工作員をパートナーにして、ヨーロッパを股にかけた人生最大の冒険が始まった!
“Peter Pan with a license to kill”
オーウェン役のノア・センティネオは、キュートなラブコメ『好きだった君へのラブレター』(2018)でブレーク。劇中“Peter Pan with a license to kill”と揶揄される、罪のなさそうな顔をして大胆な行動に出る本役に打ってつけだ。また昨年公開された『ブラックアダム』(DCコミックス)では、スーパーヒーローのアトム・スマッシャーを演じた。
英国出身のローラ・ハドックは、マーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズで主人公スター・ロードの母親を演じた。ハドックはエキゾチックなマックス役にピタリとはまり、センティネオとの間にはヒリヒリするようなケミストリーが働く。
オーウェンの私生活を支える2人、ハンナを演じた”Atypical”(本ブログ第86回参照)のファイヴェル・スチュワート、ゲイの親友テレンス役のダニエル・クインシー・アノーが、ドラマに優しさを与えている。
一方、強面だが意外と頼りない法務部長ナイランド役のヴォンディ・カーティス=ホール、オーウェンのセフレとなる変人局員アメリア役のケイラ・ザンダー、底意地が悪いが抜けている同僚ヴァイオレット&レスターを演じたアーティ・マン(”The Big Bang Theory”)とコルトン・ダンは、ドラマに笑いを持ち込む。
新米弁護士vs.ファム・ファタールの攻防!
ショーランナー(兼共同脚本)のアレクシ・ホーリーはエンタメの名手だ。ケヴィン・ベーコンが戦慄のカルト教団と戦う傑作スリラー”The Following”、大ヒットしたロマコメ・ミステリードラマ”Castle”、最近ではポリス・ドラメディの”The Rookie”などを手掛けている。
本作はジャック・ライアン(”Tom Clancy’s Jack Ryan”の主人公、(本ブログ第55回参照))のチャラ男版をイメージさせる、軽快な「巻き込まれ型」スパイアクションに仕上がった。
本作最大の魅力は、CIAの新米弁護士とファム・ファタール(男を騙す悪女)の組み合わせの妙だ。オーウェンを誘惑し手練手管で操ろうとするマックスと、持ち前のカンと頭の切れで主導権を取ろうとするオーウェンとの、丁々発止の攻防は楽しくてスリリング。2人は次第に愛憎交えたパートナーとなっていく。
また、この2人に元カノのハンナを絡めた微妙な三角関係も新鮮だ。
スパイドラマやエスピオナージ小説は、ストーリーが複雑で時として冗長なのが難点だ(ジョン・ル・カレの小説は難解過ぎる)。その点本作はエンタメに徹していて分かりやすい。ユーモアも効いていて、組織内でだれも信用できず、互いに足を引っ張り合い、理解できない略語と暗号による会話が飛び交うCIA内の描写はとても笑える。
最終話はスパイドラマらしいツイストが思い切り炸裂し、手に汗握る展開。オーウェンがとんでもないトラブルを抱えこむエンディングは、ものの見事なクリフハンガーで文句なし。制作が決まったシーズン2を待ちきれない。
“The Recruit”は、自分勝手でやんちゃで無鉄砲だが、頭脳明晰で楽天的で正義感が強くて根は優しいアドレナリン・ジャンキーの熱血弁護士が大活躍する、愉快痛快なスパイアクション・ドラマなのだ!
原題:The Recruit
配信:Netflix
配信日:2022年12月16日
話数:8(1話 52-58分)
『100回記念特別付録』:Top 8 Most Overlooked / Underrated Dramas!
本ブログで紹介しきれなかった、日本で知られていない、あるいは不当に過小評価されているメチャクチャ面白い作品を紹介する。いずれもやめられない止まらない状態になる隠れた傑作揃いだ!
(”The Last Ship”、”Firefly”など、現在視聴不能な作品は泣く泣く外した。)
第1位 “Queen of the South”(Netflix、2016-2021、全5シーズン、62話)
恋人のコカイン取引に巻き込まれたメキシコ人女性テレサは、運び屋をやりながら麻薬ビジネスを学ぶ。そしてカリスマ的魅力で荒くれ男たちを配下に収め、西半球最大の麻薬カルテルのトップへと上り詰めていく。主演のブラジル人俳優アリシー・ブラガの華麗な変貌が見もの。このジャンルの鉄板”Narcos”をも凌ぐ面白さ!
第2位 “Banshee”(Amazon Prime、2013-2016、全4シーズン、38話)
田舎の小さな町バンシーにやってきた前科者の男(“The Boys”のホームランダーことアントニー・スター)は、強盗に殺された新任保安官に成りすます。男は仲間を集めて盗みを働く一方で、敏腕保安官として正義の側にも立つ。凄まじいバイオレンス・アクションが次々に炸裂する、最高にクールなクライムドラマ!
第3位 “GLOW”(Netflix、2017-2019、全3シーズン、30話)
“GLOW”とは”Gorgeous Ladies of Wrestling”の略。まともな職に就けないなど、様々な理由から地方のしがないプロレスラーになった女性たち。だが、彼女らは次第にプロレスの魅力にはまり、アイデンティティを確立し、真のプロへと成長していく。笑いの中に深い感動を散りばめたアンサンブル・ドラメディの傑作!
第4位 “Weeds”(Amazon Prime、2005-2012、全8シーズン、102話)
夫の突然死によって破産状態で取り残されたカリフォルニアのセレブママ、ナンシー。彼女は息子2人を養うため、知人にマリファナを売り始める。ビジネスは大評判となり、やがてメキシコの麻薬カルテルを巻き込む大騒動に発展する。メアリー=ルイーズ・パーカーの魅力が爆発する、極めつけのダークコメディ!
※現在S1-4&8が視聴可能。
第5位 “Shameless”(Netflix、2011-2021、全11シーズン、134話)
ウィリアム・H・メイシー演じるフランクはアル中で無職、5人の子を持つ史上最低のシングルファーザー。だが一家の危機には、長女のフィオナ(『オペラ座の怪人』の歌姫エミー・ロッサム!)を中心に問題児たちは助け合う。残酷なまでに正直、倫理観はないがハートはある機能不全家族の、お下劣で感動的な大爆笑コメディ!
※現在S1-5が視聴可能。
第6位 “Ray Donovan”(Hulu、2013-2019、全7シーズン、82話 +TV映画 2022)
リーヴ・シュレイバー演じるレイ・ドノヴァンは、政治家、企業家、セレブのあらゆるトラブルを解決するLA最高のフィクサー。レイは頭脳明晰で冷酷非情、そのやり方は合法・非合法を問わない。救いようのない犯罪者の父親ミッキーを怪演するジョン・ヴォイトも見もの。2000年以降で最もクールでハードボイルドなクライムドラマ!
第7位 “Schmigadoon!”(Apple+、2021-present、全1シーズン、6話)
ミュージカルの古典『ブリガドーン』(1954)の現代風パロディ。恋人同士のメリッサとジョッシュは突然‘40年代にタイムスリップするが、「真実の愛」を見つけるまでは現世に戻れない。登場人物が突然歌いだすミュージカルの不自然さ、古典ミュージカルの差別表現を逆手に取って笑い飛ばす、斬新なロマコメ・ミュージカル!
第8位 “Billions”(Netflix、2016-present、全6シーズン、72話)
手段を問わないヘッジファンドの帝王アックス(“Homeland”のダミアン・ルイス)と、彼の逮捕に病的な執念を燃やす連邦検事チャック(名優ポール・ジアマッティ)。生き馬の目を抜くウォール街で、2人の凄絶な頭脳ゲームが展開する。ルール無用の企業買収やインサイダー取引が活写される、必見の金融クライムドラマ!
※現在S1-5が視聴可能。
(番外編)“The Last Movie Stars”(U-NEXT、2022、リミテッドシリーズ、6話)
50年連れ添ったポール・ニューマンとジョアン・ウッドワードの人生を振り返るドキュメンタリー。制作はHBO/CNNで監督はイーサン・ホーク。音声記録を失った大量のインタビュー原稿をベースに、ジョージ・クルーニー、ローラ・リニーらが声を吹き込んで再構築した。映画スター、レーサー、慈善活動家、父親などポール・ニューマンの素顔とともに、ジョアンとの結婚生活、アルコール依存、息子の突然死など人生の浮き沈みが語られる。2人の主演作のクリップもふんだんにありファン必見。忙しい人は最終話(80分)だけでも観る価値がある。
Written by 土橋秀一郎(どばし・しゅういちろう)’58年東京生まれ。日本映像翻訳アカデミー第4期修了生。シナリオ・センター’87年卒業(新井一に学ぶ)。マルタの鷹協会会員。’99年から10年間米国に駐在、この間JVTAのウェブサイトに「テキサス映画通信:“Houston, we have a problem!”」のタイトルで、約800本の新作映画評を執筆した。映画・テレビドラマのDVD約1300本を所有。推理・ハードボイルド小説の蔵書8千冊。’14年7月には夫婦でメジャーリーグ全球場を制覇した。
※※特報
同コラム執筆の土橋秀一郎さんがJVTAのYouTubeチャンネルに登壇しました!
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